第3話 前編 魔王と3人目の執行官
「ナタスリーヴェ君、君はお亡くなりになりました」
「ほう」
「転生か消滅を選んでほしいんだけど、どちらを選ぶ?」
「転生だ」
「は~い、転生ね~」
テンポよく進んでいく会話。
本日の舞台は豪華な晩餐会の会場。
今回の執行官と転生者は細かな装飾のされた長いテーブルをはさんで向き合うように座っている。
皆さんこんにちは。私はサトウ。
私は現在長テーブルの下でガタガタ震えております。
なぜか? その理由は今回の転生者にある。
私は現実逃避も兼ねて今から少し前を回想する。
回想スタート。
~少し前~
「サトウちゃん、あと少ししたら私の執行のお手伝いをしてもらうね~。
これ資料だから、見ておいて」
「わかりました。わざわざすみません、エゥブさん」
「いいのよ~。よろしくね~」
転生局人型部第三係所属の転生執行官、エゥブさんから資料を受け取る。
ヒトではない執行官は担当する転生者の情報を不思議な力で感知し、半透明の光るパネルでいつでも閲覧することができる。
そんなカンニングし放題の素敵能力を持たない私は、別の媒体に写した資料をいつももらっている。
どれどれ、今回の転生者は、ナタスリーヴェさん。
職業:魔王。
「魔王!?」
「そうなの。魔王って職業なのね~」
「いや、そこじゃねえよ!?」
思わず素が出る。
いかん。真面目で冷静かつおしとやかな助手という私のイメージが崩れる。
それに肩書が魔王ってあるけど偶々人型の魔族の王様とか魔法を使う王様っていうことかもしれない。
肩書で人を判断するなんて…。
私の脳内ウォーレイ君が「サトーさん! だめだよ!」と注意してくれる。
ウォーレイ君は脳内イメージでさえかわいいなあ。
略歴は…。
小国の第4王子として生誕。
王になるため父である王、自分以外の王位承継者を全員毒殺。
王となって以降は積極的に戦争を周辺国に吹っ掛ける。
順調にその領土を広げていたが、大国相手にはさすがに分が悪く、居城が包囲される。
そこで諦めるかと思いきや、禁術を発動。
侵攻してきた兵と自国の国民全てを生贄に捧げ、魔王として覚醒。
それ以降は自らも最前線に出ながら人間より強靭な魔獣・魔物を率いて侵攻を再開。
魔獣・魔物は周辺国から女性を攫って増やしたらしい。
最期はその存在を危険視したその世界の神が直々に殺害。
正直神でさえ辛勝だったらしい。
享年327歳。直接殺害しただけで3万6781人。
間接的なものを含めればこの世界の総人口の7割を殺している。
「極悪人じゃねえか!」
「ほらサトウちゃん、スタジオに行くわよ~」
「いやです!死にますもん!」
「大丈夫よ~。執行中に死んだなんて聞いた事ないもの」
「いやあああああぁぁ……」
回想終了。
私の命も終了するかもしれない。
いや、今の私って死ねるのかな。わかんないや。えへへ…。
~現在~
「君が転生できそうな世界はこんな感じかな」
「ふむ」
エゥブさんの説明を受ける男の人(?)。
真っ黒な髪に生えた大きな角。色が反転した瞳。全身から漏れ出る真っ黒なオーラ。
どう見ても魔王です本当にありがとうございました。
「執行官とやら。貴様に聞きたいことがある」
「何かな?」
「大抵こういう場所では生前の行いで扱いが変わるものではないのか?」
「天国とか地獄とか最後の審判とかそういうの?」
「うむ。死後報いを受けろ。
余に殺された者はそう呪いながら死んでいった」
今の所魔王が暴れる様子はない。
「そういうのは特にないわよ~。
裁定局っていうところから転生先について指定されることはあるけど、君にはそういうのないし」
「ほう」
「君が生前あれだけできたのは元々君の【保障】の上限容量がすごくて色々付いてたから、っていうのもあるのよ。
あ、【保障】っていうのはね……」
エゥブさんの説明が続く。
裁定局何やってんの。絶対転生させちゃダメなタイプでしょこの魔王。
2人の会話はスムーズに進んでいる。
……なのに、少しずつ、魔王が発せられる黒いオーラが増している。
……不機嫌になっていっている?
「……とりあえず説明はこんな感じかしら。
何か質問とか、ある?」
「……さっきからテーブルの下で丸まってるのは何だ」
ばれてるーーーーーーーーーー!?
さすが魔王! でも放っておいてほしかったなあ!
「助手のサトウちゃんよ。
君に殺される~っておびえてるのよ」
「ほう。……出て来い助手とやら」
「ほらサトウちゃん、ナタスリーヴェ君がお話したいって」
だめだ。死んだわ私。
魔王パワーで壁のシミになるんだぁ……。
のそのそとテーブルの下から這い出る。
大体何で野球少年、村娘の次が魔王なのさ。
もっとこう、段階とかあるじゃん。
第3話に出てきていいキャラじゃないでしょ。
「助手。余の質問に答えよ」
「……はい」
「余が恐ろしいか」
「……はい」
何がスイッチで私がぐちゃっとなるか分からない。
たった2文字の言葉を吐き出すのに細心の注意を払う。
「貴様は余が悪だと思うか?」
悪に決まってんだろ。
もちろんそんなことは言えない。
これはどっちだ。どう答えれば私は生きてあのいつもの部屋に帰ることができる?
答えに詰まる私を見て魔王は楽しそうだ。
「ククク。そう怯えずともよい。
貴様がどう答えようと不問とすることを約束してやろう」
「……本当ですか?」
「二言はない。余も今では死したる身。
これも次の転生までの余興よ」
魔王から出る黒いオーラが減っている。
…ちょっと機嫌が直ってる?
「……その、たくさんの人を、殺しましたし、えと、善人では、ないかなー、って、思います……」
だんだん声が小さくなる。
だが私の答え、いや私の態度に魔王は満足したようだ。
「で、あろうな。
余とて余のしたことが善であるとは考えておらん。
ではなぜ、余があのようなことをしたのか、分かるか?」
「……分かりません」
分からない。
どうやら私は虐殺者の気持ちが分かるような人間ではないらしい。
そのことにちょっと安心する。
魔王は恍惚の表情を浮かべる。
「楽しかったからだ。
毒に苦しみながら驚愕の表情でこちらを見る兄弟や父。
守るべき故郷が滅んだと告げられた時の最前線の兵士。
勝利を確信した瞬間に生贄になった事に気づいた将軍。
異形の化物共に囲まれ涙を浮かべながら救いを乞う女。
圧倒的な数の魔獣に食い殺される英雄とはやされた男。
これらの絶望を見るのが私は、本当に、楽しかった。
この楽しみが絶えぬよう、余は生涯の全てを捧げたのだ」
「……」
「死してなお、貴様のその表情が見れて余は楽しい。
ああ、次の生では神の絶望を見たいものだ」
どうやら私が怯えていること。
それが私の生きる道だったらしい。
惨めではあるが、命には代えられない。
「……それに比べ、執行官、貴様はつまらん」
魔王の鋭い視線がエゥブさんに向けられる。
「貴様は余を恐れていないのか?」
「私?うん、全然?」
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