第2話 後編 復讐と救済

「だって、転生すれば全部忘れられるから!」


 ウォーレイ君はこの日一番の笑顔で言い放つ。

 エレさんは、その言葉を聞いて絶句する。


「転生するとね、前世のことは全部忘れるんだ!

 辛いことも、悲しいことも全部なかったことにして、1からまた始められるんだよ!」

「…アンタ、何を言って…」

「だからね、復讐とか、もうそんな悲しいことも考えなくていいんだよ。

 エレさんが次は幸せに生きられるようボクが素敵な【保障】を考えるよ!」

「……」

「だからエレさん、ボクは転生をおススメするよ!

 消滅だと、もう次はないからね!」


 エレさんのウォーレイ君を見る目が得体の知れないモノを見る目に変わる。

 ヒトには理解できない感覚。

 私がここで助手をするようになってからたまに感じる感覚をエレさんは今まさに味わっているのだろう。


「アタシに、全部忘れろって…?」

「うん。だってもうどうしようもないんだよ。エレさんは死んじゃったんだから。

 だからこれからは、これからのことを考えていこう?」


 エレさんの視線が揺れ、こちらを向く。

 「オマエもコイツみたいなヤツなのか?」そう言われている気がした。

 私にも私が分からない。もしかしたらウォーレイ君よりもひどい人間なのかもしれない。

 それでも…


「ウォーレイ執行官。彼女は妹さんを……失ってしまったものを、あ、愛していたんです。

 それを忘れることを救いというのは……違うのではないでしょうか」

「むう。でもどうしようもなくない?

 …サトーさん。何でちょっと顔赤くなってるの?」


 やかましい。

 ……だが確かにどうしようもない。

 時間を巻き戻して全てを救うなんてことはできないのだから。


「それに、復讐なんて良くないことだよ。

 傷つけられたからって、人を傷つけていいわけじゃないし、復讐はさらなる復讐を呼んじゃうんだから」


 ウォーレイ君の言うことはきっと正論なのだろう。

 だけど、それに納得できるかは別問題だ。

 私がいつか納得できる日は来るのだろうか。


「エレさん、どうする?

 ボクはあなたに転生か、消滅かどちらかしか提案できないんだ。ごめんね。」

「……」


 エレさんは答えない。

 どうしても納得できない。そう考えているのだろう。


「でも、転生を選ぶなら次こそエレさんが幸せになれるようにカンペキな【保障】をつけるよ!

 そうだ! 【盗賊除け】なんてどうかな! いや、【護身術】、いやいや、【平穏な一生】もいいなあ」

「……」


 ウォーレイ君の言葉にも答えない。

 エレさんの復讐が達成されることは無い。そもそも始まりすらしない。


 だけどエレさんには幸せになってほしい。

 これは私の本心だ。ひどい人間かもしれない私の本心だ。

 ウォーレイ君も、感覚はずれているかもしれないけど同じ思いのはずだ。


 こんな私に今できることは……


「ウォーレイ執行官。提案があるのですがよろしいでしょうか……」










「転生局人型部第三係」。

仕事を終え、いつもの部屋にウォーレイ君と戻るとそこにはドーレさんがいた。


「お疲れ様です。ドーレさん」

「サトウか。お疲れ。」

「ボクもいますよドーレさん!」

「ああ。お疲れウォーレイ」


 ドーレさんは事後処理の真っ最中だった。


「ドーレさん! 今執行終わったところなんですか?」

「ああ。ある村の襲撃があってな。そこで亡くなった女性の執行がちょうど終わったところだ」

「あ、ボクも同じ襲撃で亡くなった女の人の執行担当しました!」

「そうか」


 私は3人分のお茶を入れてそれぞれの机の上に置く。


「その執行が少し特殊でな」

「特殊?」

「ああ。【金運】はいらないから、別の【保障】が欲しいといってきたんだ」

「何ですか?」

「【血縁固定】。

 せいぜい前世での兄弟姉妹とまた血縁関係になるっていう程度のものだが…。

 転生すれば記憶はなくなると言っても譲らなかったもんだから、希望通りにしておいた」


 …それは。

 ウォーレイ君がこっちを見てニッコリ笑っている。


「ふふん」

「? どうしたウォーレイ、…まさかサトウお前また何かしたのか」

「またって何ですかまたって」

「なんでもないですよー。つい最近同じ【保障】をつけることがあったなーって思っただけでーす」




 私はこれからも考え続ける。

 私のこれまでとこれからを。

 それでも、私はこの時ばかりは、私は結構いいやつなのかもしれない、そう思えた。

 私はドヤ顔でドーレさんに言う。


「ドーレさんが担当した女の人の名前当ててみましょうか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る