百合
【百合・サイコサスペンス】バレンタイン殺人事件
小説投稿サイト「ノベルアッププラス」百合フェア2020応募作品の転載です。
https://novelup.plus/story/884066849
カクヨムの三題噺に載せている「バレンタイン殺人事件」に加筆したものです。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894177887/episodes/1177354054894196791
【作品タイトル】
バレンタイン殺人事件
【エピソードタイトル】
チョコレートに愛を込めて
【あらすじ】
私は、仲の良いクラスメイトに片思いをしている。
彼女のことを思いながらバレンタインのチョコレートを作っていると、思いがけない話題が。
「ねぇ、バレンタイン事件って知ってる?」
――――――――――――――――――
私の白い指先から、血が滴る。
濃厚な赤が風船のように膨らみ、ぽたり、ぽたりとボウルのなかに落ちてゆく。
その一滴ごとに、私の愛が詰まっている。
『ねぇ、バレンタイン事件って知ってる?』
ハンズフリーにしたスマホから、そんな質問が響く。
いったいどこでそんな話を聞いたのだろう。私はくすくすと笑った。
「ええ? なあに、それ?」
『都市伝説みたいなやつだよ。毎年、バレンタインの日に男子学生が行方不明になるんだって』
「ふ〜ん。バレンタインの日ばっかり? ちょっと不思議だねぇ」
『でしょ? しかも被害者は私たちと同学年くらいで、事件が起きているのもこの近辺なんだって』
「そうなんだ。怖いねぇ」
『バレンタインっていうのが気になるよね。チョコに毒でも入ってたのかな』
「あ〜、どうだろう、ふふ」
ヘラでチョコをかき混ぜる。ゆっくり、ゆっくりと想いを込めて。
私の気持ちを、甘いチョコが優しく包み込んでくれる。
レシピ本にはない、オリジナルのアレンジ。
あとはハートの型に流し込んで、冷蔵庫で冷やして、可愛らしいデコレーションとラッピングをすれば完成だ。
『そんな事件があるなんて、ちょっとチョコレートを食べるのが恐くなるよね』
スマホからの声に、私は少し首を傾げた。
「チョコに毒が入っているってことはないんじゃないかな、たぶん」
『どうして?』
「チョコに毒を入れるってことは、最初から殺意があるってことでしょ」
『うん』
「ということは、普段からあまり関係が良くないんじゃない?」
『そうかもね』
「そんな相手に、バレンタインの日に呼び出されてチョコ渡されても……口に入れるのちょっとためらうんじゃない? そもそも呼び出しに応じないかもしれないし」
『そっか~。じゃあさ、フられた女の子がフった男の子を殺しちゃうとか?』
的を得た推理に、思わず手が止まる。
私は静かに瞳を閉じて、電話の向こうの相手に想いを馳せた。もし今年もバレンタイン事件が起きるとしたら――いや、考えるのはよそう。
「相手のことが好き過ぎて、フられた悲しみで殺しちゃうのかも」
電話の向こうの相手に深くゆっくりと釘を差す。
『もしくは、プライドが高くてフられることが許せないとか?』
手を洗い、指先の傷に絆創膏をぺたりと貼りながら呟く。
「……私だって、冷酷な殺戮者になりたいわけじゃないんだけどなあ」
指先の傷が、ズキンと甘い痛みを帯びた。
『え、なあに?』
「なんでもないよ、独り言」
そう返して、私はスマホにキスを落とす。
彼女は、私からのチョコを受け取ってくれるだろうか。
私の告白に、頷いてくれるだろうか。
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