三題噺(古め・短め)

【サイコサスペンス】バレンタイン事件

お題「本」「風船」「冷酷な殺戮」

ジャンルは「サイコミステリー」


どういうわけか百合になりました。

【※注意】一部の方から「怖い」との感想をいただいております。


下記のサイトに加筆修正版を載せています。

ノベルアッププラス

https://novelup.plus/story/884066849

――――


 白い指先から、血が滴る。

 濃厚な赤が風船のように膨らみ、ボウルのなかに落ちてゆく。

 その一滴ごとに、私の愛が詰まっている。


『ねぇ、バレンタイン事件って知ってる?』


 ハンズフリーにしたスマホから、そんな質問が響く。

 私はくすくすと笑った。


「ええ? なあに、それ?」

『都市伝説みたいなやつだよ。毎年、バレンタインの日に男子学生が行方不明になるんだって』

「ふ〜ん。怖いねぇ」

『バレンタインっていうのが気になるよね。チョコに毒でも入ってたのかな』

「あ〜、どうだろう、ふふ」


 ヘラでチョコをかき混ぜる。

 私の気持ちを、甘いチョコが優しく包み込んでくれる。

 レシピ本にはないアレンジもしたし、あとはハートの型に流し込んで、冷蔵庫で冷やせば完成だ。


『フられた女の子が、男の子を殺しちゃうのかな。なあんてね』


 的を得た推理に、思わず手が止まる。

 まあ、今年は男の子じゃなくて女の子かもしれないけれど。


「……私だって、冷酷な殺戮者になりたいわけじゃないんだけどなあ」

『え、なあに?』

「なんでもないよ、独り言」


 そう返して、私はスマホにキスを落とす。

 指先の傷が、ズキンと甘い痛みを帯びた。

 彼女は、私からのチョコを受け取ってくれるだろうか。

 私の告白に、頷いてくれるだろうか。

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