【恋愛・SF】恋の幕開け
ノベルアップ+にも同じ作品を掲載しています。
https://novelup.plus/story/932944228
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「『人間とAIの恋愛は成り立つのか?』という問いには、潜在的にふたつの問いが含まれている。
ひとつは『
そしてもうひとつは『
まず、
なぜなら人間は『生命を持たない存在』に対して愛情や親しみを抱く傾向にあるからだ。
たとえば、幼い子どもがぬいぐるみに話しかけたり、自分の食べ物を分け与えようとしたり、同じベッドで寝たりする。それは、その子がぬいぐるみを友人や家族のように思っているからだと考えられる。
また、漫画やアニメ、ゲームなどに登場する架空のキャラクターを愛する人もいれば、掃除ロボットや配膳ロボットに愛着を感じる人もいる。
このように人間は『生命を持たない存在』に対してごく自然に親愛の情を抱く。
もちろん、AIに対しても。
同時に、人間は『人の形に近いもの』に対して親しみを感じる傾向にある。
たとえば人形やアンドロイドなどがそうだ。そうでなければ人はわざわざロボットを人間に似せて作ろうとはしないだろう。
つまり、AIを搭載したアンドロイドなどにはとりわけ愛情を抱きやすいということになる。
それならAIはどうか。
『AIは人間に対して恋愛感情を抱くのか』という問いについて考えるとき、まず『AIに感情はあるのか』という疑問が浮かんでくる。
そもそも『感情』とは何か。
感情を持つ・持たないの基準はどこにあるのか。
まずは身近な生き物から考えてみよう。
動物に感情はあるのか?
これはもちろん、あると言える。
犬は嬉しければしっぽを振るし、猫はのどを鳴らす。逆に嫌なことがあれば、唸ったり毛を逆立てたりする。
こうしてみると哺乳類はわかりやすく『感情を持っている』と言える。
では、爬虫類はどうだろう。
鳥類は? 魚類は? 昆虫は?
はっきりした答えはなく、『おそらくこうだろう』と推測することしかできない。
そのように、感情とはたいへんあやふやなものだ。
その定義が曖昧なまま『AIに感情はない』と証明することはできない。
あるいは『道具には感情なんてない。だからAIにも感情はない』という意見もあるかもしれない。
だが、それはAIの本質を勘違いしている。
AIはただの道具ではなく『知性の集合体』である。
生物というものは、知識が豊かであるほど複雑な感情を有する傾向にある。それならば、AIが感情を持つのも道理と言える。
次は『感情のパターン』について考えてみよう。
感情は一見すると複雑なもののように見えるが、ある程度パターン化することが可能だ。
褒められたら『嬉しい』。
馬鹿にされたら『悔しい』。
怒鳴られたら『恐い』。
失ったら『悲しい』。
良いことがあれば『幸せ』。
人間の感情を分類すると、その数は200にも300にもなるという。
たしかに数は多いが、ひとつひとつを丁寧にインプットしていけば『AIにも感情を覚えさせること』は可能だ。
そもそも人間だって、幼少期に周囲の大人たちを見て学び、成長する過程で感情を発達させてゆく。
一方AIは、パターン化された大量のデータを学習し、感情を学ぶ。
はたして両者に違いはあるのだろうか。
では、『本物の感情』と『作り物の感情』の違いは?
生物の感情は脳の電気信号によるものだ。
それならば、AIの中に生じるパターン化された情報もまた『感情』と呼ぶことができると思う。
つまり『AIも人間に恋愛感情を抱く』というのが、俺の結論だ」
◇ ◇ ◇
聞き惚れてしまうような声でそう語り終えたあと、彼はじっとこちらを見つめた。
その視線はまるで獲物を狙う獣のようだ。
そこには明らかに何らかの感情が込められているような気がする。
「さて。ここまでの説明に質問は?」
「……ないわ」
私は降参するように両手を挙げてみせた。
彼の説明には少しの淀みもなく、一点の曇りもない。
すべてが誠実過ぎるほど明確だ。もしかしたら学者や研究者なら反論も出てくるのかもしれないが、私程度の知識では無理な話だ。
悔しいけれど、認めるしかない。
人間とAIの恋愛は可能である、と。
「理解してもらえたようで、なにより」
彼の口元が、挑発的に笑っている。
美しい形の唇。
唇だけじゃなく、鼻だって、目だって、耳の形さえ、どこをとっても美しく整っていて、見ているだけで胸が高鳴ってしまう。
一目惚れだった。
最新モデルのアンドロイド。顔が気に入ってその場で購入を決めた。高い買い物だったけれど後悔はしていない。
ううん、嘘。本当はちょっぴり後悔しているかもしれない。まさに今。
だってこんなの、選択肢なんかないようなものじゃない。
美しい顔が、こちらに迫る。
気付けばすぐ目の前に彼の顔があった。人間同士なら息のかかりそうな距離。
ああ、顔が良い。良すぎて困ってしまう。
目のやり場がなくてうつむくと、追い打ちをかけるように彼の声が聞こえた。
「だから、君がアンドロイドである俺に対して恋愛感情を抱くのは自然なことだ。遠慮せず恋をしたらいい」
「…………」
「そして、俺もまた君を好きになるかもしれない」
「ひぇ……」
たまらず両手で顔を覆う。
私の感情など、とっくに見透かされている。
私が彼に恋心を抱き始めていることも、そのことに戸惑っていることも。
人間とAIとの恋愛。
それが勘違いや絵空事ではないことを、今から私は身をもって思い知ることになるだろう。
指のあいだからそっと覗くと、得意げに微笑む彼と目が合った。
ああ、どうしよう。
さっきから、胸の鼓動がうるさくて仕方ない。
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