【ラブコメ】三人の山田くん

お題「春」「橋の下」「おかしな山田くん(レア)」

ジャンル「大衆小説」


おかしな話になりました。

――――――


「あなたが落としたのは、金の山田くんですか?

 それとも、銀の山田くんですか?」


 泉からざぶざぶと現れた女神は、両手にゴールドヤマダとシルバーヤマダをぶら下げ、そう尋ねた。


「あの、女神様。それ重くありませんか?」

「重いわ~。だからさっさと決めてちょうだい。腕がつりそうよ」


 あ、意外とフランクな女神様だ。

 そんな感想を抱きつつ、お決まりのセリフを口にする。


「恐れながら、女神様。わたくしが落としたのは金の山田くんでも、銀の山田くんでもありません。山田くんです」


 少し芝居がかった私の言葉に、女神様は美しく微笑んだ。


「あなたは正直者ですね。ご褒美として、あなたにはこの金の山田くん、銀の山田くんを差し上げましょう。そして、山田くんもお返しします」


「えっ!? ちょ、ちょっと……!」


 こんなはずじゃなかった。

 慌てて呼び止めるが、女神様はまたざぶざぶと泉の中へ潜ってしまった。


 恐る恐る振り返ると、となりに三人分の人影が見えた。

 金の山田くん、銀の山田くん、そして山田くんだ。金と銀が木漏れ日をギラギラ跳ね返して眩しい。

 三人とも、ぜぇぜぇ息を乱しながら訴える。


「「「ひっ、ひどいじゃないかハニー! いくらこのボクと戯れたいからって、いきなり泉に落とすのは危険が危ないよッ!」」」


 三人の声が見事にハモる。


 私はがっくりと肩を落とした。

 ああ、これはどこから見ても「普通の山田くん」ではない。

 いつも通りの「世間の普通からはちょっとズレた、どこかおかしな山田くん」だ。泉に落とせば、何かの手違いで「普通の山田くん」が手に入るかもしれないと思ったのに。


 私は三人の山田くんをキッと睨んだ。


「うるさい! あなたのような変人と婚約させられた私の立場にもなりなさい!」


 酒の席で祖父たちが勝手に決めた婚約。

 私は、愛する人と結婚する未来を思い描いていたのに。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう。そう考えるたび、涙が溢れる。


「「「泣いているのかい、ハニー」」」

「うるさい、放っておいてよ!」

「「「どうか泣かないでおくれよ、ハニー。君のためなら僕はなんだってするから」」」


 ああ、三倍うるさい。

 泉に落としたのは失敗だった。


「もういい! 次は『橋の下のおじさん』に会いに行くわ!」

「「「それはどのような御仁なんだい、ハニー?」」」

「なんでも、普通の人には見えない服を着ているそうよ。これであなたが普通でないってことが証明されるわね」

「「「それはデンジャラスな香りがするね、ハニー。ぜひお供するよ」」」


 金の山田くん、銀の山田くん、おかしな山田くんがわらわらと後をついてくる。何がそんなに嬉しいのか、三人とも私を見つめてにこにこ微笑んでいる。

 ちょっとだけ頬が熱くなるのを感じた。

 いや、これはきっと興奮したせいだ。


「春の挙式までには『普通』になってもらいますからねッ!」


 そう叫び、私はずんずんと歩き出す。

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