【日常】祖父と僕の思い出

お題「前世」「箱」「ファミコン」

ジャンル「偏愛モノ」


今から三十年後の未来の話です。

懐かしさを表現することを目標に書いてみました。


(2020.02.26)

年齢の計算がおかしかったので、設定を変更しました。(曾祖父→祖父)

――――――


 

「ファミコン? そりゃあゲーム械のことだなあ」


 祖父は、ぼんやりとした目つきで呟いた。

 思わず落胆の溜息が漏れる。

 80歳に差し掛かる祖父は、ただでさえ認知症の疑いがあると言われている。

 ましてや新しいことを覚えるだなんて無理なのだ。


 familiar conductorファミリア・コンダクター、通称「ファミコン」。

 家中のあらゆる家電を制御してくれる機械で、いまや一家に一台なくてはならない存在だ。


 ファミコンに洗濯機の操作を予約しておけば、決まった時刻に洗い始め、乾燥までしておいてくれる。炊飯器や電気ポットの予約もできる。家に帰ってきてすぐに温かいお茶を飲めるというわけだ。

 インターネットからレシピをダウンロードすれば、ファミコンがオーブンを制御し、微妙な火加減を調整して絶品料理を作ることだってできる。

 掃除ロボットが今どこを走っているのかもわかるし、好きなアーティストの新曲が発売されればデータをダウンロードしいつでも聴けるようにストックしておいてくれる。目覚ましのセットだってできる。

 会話学習機能もあり、寂しい夜には話し相手にもなってくれる。


 このファミコンがあるおかげで、人の暮らしはずいぶん便利になった。

 ところが、祖父にはそれが理解できない。

「おい、洗濯機が勝手に回り始めたぞ」だの「誰もいないのにポットが熱くなってるが、故障か?」だのと騒ぎ出す。

 僕は何度もファミコンについての説明を試みたが、失敗に終わった。


 それにしても、なぜ祖父はファミコンをゲーム機だと思ったのだろう。

 今の時代のゲーム機といえば、なんといっても「VR-Lifeブイアール・ライフ」だ。

 特に最近のゲームはとてもリアルで、専用の機械さえあれば、温度や触感や香りなども感じることができる。


 今日もゲームをやろうとVR-Lifeを立ち上げる。

 途中までプレイしたゲームの続きをやるつもりだったが、ふと思い立ち、認知症のお年寄りに効果のあるゲームはないかと探してみることにした。


 クロスワードや間違い探しなど、脳トレ系のゲームは多いが、どれも今の祖父にできるかどうか疑問だった。

 似たようなゲームが並ぶ中、『思い出』というゲームが目に留まる。


 対象年齢70歳以上。

 なんだこりゃ。

 説明には「古き良き時代の日本を再現しました」と書かれている。


 おためしでダウンロードし、さっそくプレイをしてみる。

 古ぼけた街並みが僕の前に現れる。

 この風景は……平成? いや、昭和か。

 祖父が子どもの頃の時代ということになる。


 僕は一度ゲームを中止し、祖父を誘ってみることにした。

 コントローラーの使い方を簡単に説明し、ゴーグルをセットする。

 ゲームをコンティニューすると、ふたたび昭和の風景が現れた。


 横にいる祖父から歓声が上がる。

「今時のゲームはすごいなあ」

 どうやら気に入ってくれたようだ。


 このゲームは、プレイヤーが望めばクエストをこなすこともできるが、こうしてただゲーム内の風景を見て周ることもできるようだ。

 足の悪い祖父でも、ゲームの世界に入ればコントローラーの操作だけで前へ進むことができる。

 僕たちは昭和の町をゆっくりと歩いた。


 このマップでは、アーケードのある商店街が続いている。

 ある店の前を通りかかったとき、祖父が嬉しそうに声を上げた。


「おおっ、ファミコンじゃないか!」

「え、これが?」

「そうだよ。ファミリーコンピュータ。縮めて『ファミコン』だ」


 彼の指し示す方を見ると、そこにはシンプルな箱型をした機体が置かれていた。左右に小さなコントローラーがついている。白とえんじ色の配色が印象的だった。


 店の中にはたくさんのゲームソフトが並んでいる。

「おっ、スーパーマリオだ! パックマンやグラディウスもあるじゃないか。ゼルダの伝説も、悪魔城ドラキュラも懐かしいなあ。ドラゴンクエストやファイナルファンタジーもあるなあ」


 祖父の目がみるみる輝きを増していく。

 彼は80歳の老人なんかではなく、まるで少年のようだった。

 僕にもはっきりとわかった。彼は今、子ども時代の記憶を鮮明に思い出しているのだ。


 そして、気付く。

 僕もゲームは好きだ。漫画や音楽や映画よりも何よりもゲームが好きなんだ。

 前世はきっとゲーマーだったに違いない、なんて考えていたが、そうか。僕は祖父に似たのか。


 これからも、僕は祖父をゲームに誘うだろう。

 次は僕のおすすめのゲームの中に連れて行ってもいいかもしれない。

 モンスターが出たら、僕が全部倒してやる。

 謎解きが出題されたら、一緒に考えよう。

 懐かしい景色も、新しい景色も、いっぱい見よう。


 そして、これからも一緒に歩き続けよう。




【参考資料】


●ニンテンドークラシックミニ ファミリーコンピュータ|任天堂

https://www.nintendo.co.jp/clv/index.html#back

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