第39話 掛川の「ひめくら」

 アニメ『ゆるキャン△ SEASON2』』の第一話で、夜明け前の濃紺の空の下、原付で山梨を出立した「志摩リン」は、第二話「大晦日のソロキャンガール」の冒頭で、まず最初に〈御前崎岬〉に立ち寄っている。


 だがしかし、御前崎岬に行くには〈アシ〉がないと難しいため、ペーパー・ドライバーの隠井は、この地の訪問も諦めて、掛川に向かった次第なのである。


 アニメでは、アニソン・シンガー、亜咲花(あさか)が歌うオープニング・テーマ「Seize The Day」が終わった後、リンが、母の御使いで掛川のお茶屋さんを訪れている場面から始まっている。


 アニメでリンが訪れた掛川のお茶屋さんは、その特徴的な木製の外観から、掛川駅から約二.五キロメートルの所に位置している〈きみくら〉であることが、実写ドラマ版によっても確証を得ることができる。


 二.五キロメートルということは徒歩だと四十分の距離だ。

 隠井は、事前にスマフォ・アプリの〈マップ〉で、バスの時刻を確認しておいた。

 おいたのだが……。

 東海道線で十時半頃に掛川駅に到着し、トイレ休憩の後、バス停に到着した隠井は、時刻表を確認して愕然としてしまった。

 通常時でさえ、バスは一時間に一本程度しか運行していない。それゆえに、西富士宮行きを断念したのだが、十二月三十一日は特に、年末年始の特別ダイヤで、きみくら前で停車するバスは〈三時間おき〉の運行で、次のバスは十二時の出発なのだ。


 あと、一時間半だとっ!


 これだけの時間があれば、移動に徒歩で四十分を費やして、買い物と取材をした上で、リンちゃんと同じように二階の〈茶寮〉でまったりしたとしても、行きのバスが到着した頃には、全てを終えているであろう。

 そこで、隠井は寒空の下、きみくらまで徒歩で向かうことにしたのだった。

 ちなみに、きみくらから掛川駅の戻りのバスも、適切な時刻のものはなく、全くもってトホホな話なのだが、結局、再び、徒歩で来た道を戻ることになった隠井であった。

 やはり、原付がないと、リンちゃんのような移動は難しいようだ。

 

 さて、物語の中で、どのお茶を買ったらよいのか逡巡するリンは、お茶を試飲させてもらい、「カドが取れたまろやかな味」が特徴の「ひめくら(秘蔵:漢字は原作漫画の第五巻を参照)」というお茶を店員から勧められる。


 隠井は、リンちゃんが試飲したのと同じ一角でお茶の試飲をさせてもらった後、どのお茶がリンちゃんが購入したのか逡巡していた。

 しかし、いかんせん種類が多い。

 そこで、隠井は、タブレットで第二話の掛川のお茶屋さんの場面を再生してみることにした。

 画面の中で店員の女性が「山奥の倉で一夏寝かせた熟成茶」と述べていた。このフレーズに基づいて、似たようなお茶を探してみた。

 すると、である。

 

 「八十八夜の頃摘み採った新茶をワインセラーとしても使われる山奥のトンネルの貯蔵庫にひと夏寝かせました。コクと甘みのある熟成茶をお楽しみください」という説明がなされている季節限定の「トンネル熟成茶」を見付けたのだ。


 その名も〈秘壷蔵(ひこぞう)〉


 この〈ひこぞう〉こそが、アニメの「ひめくら」のモデルとなった、リンちゃんが買ったお茶に違いない、間違いない。

 早速、〈ひこぞう〉を購入した隠井は、ウハウハな気持ちで、最終ミッションに取り掛かることにした。


 物語の中で、母からの御使いを終えたリンは、二階の抹茶カフェで、抹茶ティラミスのセットを注文して、まったりとしている。隠井も同様に、タブレットで、抹茶カフェのシーンを再生させながら、抹茶セットを楽しもうと思っていたのだが……。


 十二月三十一日の〈きみくら〉二階の茶寮は、残念ながら休業だったのだ……。


〈参考資料〉

アニメ『ゆるキャン△ SEASON2』第一・二話,二〇二一年一月期.

実写ドラマ『ゆるキャン△スペシャル』,二〇二一年三月二十九日放映.


「日本茶きみくら本店」,二〇二一年十二月三十一日閲覧.

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