第29話 丸の内線のミッシングリンクとラジ館のシンメトリー:『シュタインズ・ゲート 0』1
『STEINS;GATE』(以下『シュタゲ』と略記)は、二〇一〇年に発売されたゲームを原作としたテレビアニメで、二〇一一年の四月から全二十四話で放映された。
実は、『シュタゲ』には、二つの二十三話が存在している。
二〇一一年に放映された第二十三話「境界面上のシュタインズゲート」は、二〇一〇年の八月二十一日から、同年の七月二十八日にタイム・リープした岡部が、ラジオ会館で殺害される牧瀬紅莉栖(マキセ・クリス)の救出に失敗するものの、再度、七月二十八日にタイム・リープし、今度はクリスを救うことによって、「シュタインズ・ゲート」という世界線に辿り着く内容になっている。
この『シュタゲ』は、二〇一五年に再放送されたのだが、これが、<単なる>再放送ではないことが、同年十二月に第二十三話が放映された際に明らかになった。
その二〇一五年の第二十三話では、一度目のクリスの救出に失敗した後の、岡部の行動が異なっているのだ。
二〇一一年の第二十三話では、岡部は、再度、七月二十八日に向かうことを決意する。
これに対して、二〇一五年の第二十三話では、岡部の心は折れてしまい、七月二十八日には赴かない。
この二十三話は(β)とされ、さらに、話のタイトルも「境界面上のミッシングリンク」に修正されている。クリスの救出を断念したその後の岡部は、白衣を脱ぎ捨て、黒いジャケットを身に着け、秋葉のラボからも足が遠のいて、普通の大学生としての日々を送っている。そして、エンディングの後の場面において、モニターの中に、殺されたはずのクリスが登場して、以下の日付が表示される。
「AD 2010.11.28 14:16」
その後――
「運命はこういう形に収束するのか? なあ、鳳凰院凶真(ほうおういん・きょうま)よ。結局、俺はやるしかないらしい。検討を祈っててくれ。エル・プサイ・コングゥ」
という凶真の独語によって、第二十三話(β)は終わっている。
このように改変された二十三話(β)は、二〇一一年に放映された第二十四話「終わりと始まりのプロローグ」のストーリーに結びつかなくなるのだが、その代わりに、(β)の物語は、二〇一五年十二月十日に発売されたゲーム『STEINS;GATE 0』に繋がってゆくのだ。
そして、このゲームを原作にしたアニメが、二〇一八年の四月・七月期に放映された。
この『シュタインズ・ゲート 0』(以下『0』と略記)の第一話「零化域のミッシングリンク」は、「AD 2036.06.07」における、瓦礫だらけの荒廃した東京の場面から始まり、この後、場面は、冒頭から約四半世紀前の「AD 2010.12.10 11:29」に移り変わる。
第二十三話(β)と連続性を持つ『0』の第一話では、物語が始動する二〇一〇年十二月時点の岡部は、アキバのラボには全く赴かなくなり、普通の大学生としての日々を送っている。しかし、同時に、精神に問題を抱えているらしく、幼馴染の椎名まゆりの紹介で、メンタル・クリニックに通っている。
そして、第一話は、二〇一〇年十二月十日・金曜日を時間的背景とした、岡部の通院の場面から始まる。
岡部が通っているクリニックは、その背景になる建物に「池袋CLinic」というの看板があり、さらに、背景の建造物に「サンシャイン60」や、「首都高」が認められることから、ここが<池袋>の「グリーン大通り」であることが分かる。
その後、岡部とまゆりは、池袋から秋葉原に向かうことになる。秋葉の場面では、地下鉄の看板に「丸の内線・淡路町駅」「都営新宿線・小川町」、そして「ルノア〇〇」という喫茶店の看板が出てきていることから、岡部が、フェイリスやルカと待ち合わせをしたのが、靖国通りの地下鉄出口に面した喫茶店<ルノワール>であることが推測できる。
その後、ラボに立ち寄ってから、地下鉄を利用して、岡部とまゆりは帰途につくのだが、その途上で、大学の准教授に呼ばれた岡部が途中下車したのは「本郷三丁目」なのだ。
つまり、だ。
第一話において、岡部は、まゆりと共に、「池袋」「淡路町」「本郷三丁目」と移動してゆくのだが、ここにおいて指摘できるのは、たとえば、池袋から秋葉原への移動には、環状線であるJR山手線を利用するという、他の移動手段も存在しているのに、この日、岡部が利用した路線がは、<丸の内線>である可能性が高い、ということだ。
そして、ここで忘れずに思い起こしたいのだが、『シュタゲ』の第二十三話(β)が「境界面上のミッシングリンク」、『0』の第一話が「零化域のミッシングリンク」というタイトルが冠されていることで、つまり、『シュタゲ』(β)と『ゼロ』は、<ミッシングリンク>というワードによって繋げられているのだ。
<ミッシングリンクMissing-link>とは、直訳すると、<失われた環>のことで、連続性が欠落した、その間隙が、<ミッシングリンク>と呼ばれているのである。
ここでさらに、地下鉄の路線図を参照してみると、丸の内線は、東京都・千代田区に位置する皇居を、丸く取り囲むように走っていることが分かる。
しかし、だ。
千代田区の周囲を取り囲むように走っているのに、丸ノ内線の円は完成していない。新宿と池袋を結びさえすれば、丸ノ内線の円構造が完成するにもかかわらず、この路線は、新宿を通過したのち、池袋方面には向かわず、阿佐ヶ谷や方南町方面に流れてゆく。
千代田区を取り囲むような構造を為している円い丸の内線を<鎖>にたとえた場合、池袋から新宿へとの<鎖の輪>の欠如は、こう言ってよければ、丸ノ内線の<ミッリングリンク>と呼び得るので、第一話において、岡部が丸の内線を利用することは、タイトルにもある<ミッリシングリンク>を表わしているようにも思われる。
そして、『0』の第一話・後半は日付を跨いで、翌日の、十二月十一日の土曜日の場面に移り変わる。物語の中では、この日、秋葉原の「UPX」において催される「秋葉原テクノフォーラム」にて、ヴィクトル・コンドリア大学のレスキネン教授が主催するセミナーが行われることになっており、岡部は、その受付を手伝い、このセミナーに参加もしている。
ヴィクトル・コンドリア大学とは、クリスが在籍していた大学で、この「UPX」において、「人工知能革命」をタイトルとしたセミナーが、物語内では「十二月十一日」に催されたのだ。
このセミナーで発表されたのが、「人間の記憶をデータ化して保存するシステム」で、その「データ化した人の記憶をベースにして、人工知能を作り上げ」、「人間同様の感情と記憶、心を持つ人工知能」こそが、「アマデウス」なのである。
つまり、二十三話(β)の最後に出てきたモニターの中のクリスとは、人工知能「アマデウス」が再現した牧瀬紅莉栖だったのである。
そして、岡部は、このセミナーを切っ掛けに、アマデウスによって再生されたクリスと再会を果たすことになる。
『シュタゲ 0』における「UPX」とは、秋葉原に実在し、JR秋葉原駅の電気街口を出てすぐに位置している<UDX>をモデルにした施設である。
<UDX>は、様々なイヴェントが催さる施設なので、ここでセミナーが催されることにはリアリティーがある。しかし、他にも、秋葉原にはセミナー会場たり得る場所がある中で、何故に『0』では、「UPX」が採用されたのであろうか。
それは、<UDX>が、秋葉原のメルクマールとも言い得る<目立つ>建物であることだけが、その理由ではないであろう。
ここで着目したいのは、その位置なのだ。
JR秋葉原駅を中心に据えた場合、電気街口改札を右折した先にある<UDX>は、駅を出て左折した場所に在る<ラジオ会館>の反対側、こう言ってよければ、ラジ館とUDXは、秋葉原駅を軸にして対称的な位置関係にあるのだ。
かくして、『シュタゲ』第二十三話の物語が分岐し、その後、展開してゆく物語に関して、一方の、岡部がクリスを救う『シュタゲ』第二十四話、すなわち、<シュタインズゲート>の象徴が、JR秋葉原駅を出て左折した所にある<ラジ館>であり、もう一方の、「アマデウス」が再現するクリスと岡部が再会する、欠落した鎖の輪を継ぎ足すような『0』の第一話に繋がってゆく、<ミッシングリンク>の象徴が、改札を右折した所に在り、ラジ館とシンメトリーになっている<UPX>として表わされているように思えてくる次第なのである。
<参考資料>
<WEB>
『想定科学ADV『STEINS;GATE(シュタインズゲート)』公式 サイト』,二〇二〇年十二月十一日閲覧.
『TVアニメ「シュタインズ・ゲート ゼロ」公式サイト』,二〇二〇年十二月十一日閲覧.
「地下鉄路線図 - 東京メトロ」,『東京都交通局』,二〇二〇年十二月十一日閲覧.
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