定山渓

第4話 定山渓温泉の歴史・伝説、その効能

 記録的な暖冬から一転、記録的な大雪にもかかわらず、隠井は、木曜日以降、さっぽろ雪まつりの会場に毎日赴き、祭を堪能していた。

 たとえば、『ゴールデンカムイ』のAR雪像、『僕のヒーローアカデミア』のオールマイトと緑谷くんの雪像、『Re:ゼロから始める異世界生活 氷結の絆』のエミリアとパック、そして雪ミクのコラボ雪像、二〇一九年に放送開始五十周年を迎えた『サザエさん』の大雪像、雪ミク単体の雪像、『ポケットモンスター』のピカチューやアローラロコンの雪像といった、様々な漫画やアニメの人気キャラクターをモチーフにした数々の雪像をカメラに収めたりした。

 また、会場で催されたラジオの公開生放送やアニメ・ソングのミニライブのほとんど全てに参加した。

 かくの如く、隠井は、雪まつりを楽しみまくっていたのだが、最終日前日の月曜日、祭への参加を一日休んで定山渓温泉に赴くことにしたのだった。


 定山渓温泉は、札幌中心部から南に約二十六キロメートル、札幌市南区に位置する温泉街である。

 その歴史は、今から約百五十年前、江戸時代末期にまで遡ることができる。

 この温泉街の名の由来となった定山(じょうざん)は、備前国(現在の岡山県)出身の曹洞宗の修験僧である。彼は十七歳で実家を出て、道場で修行を積んだ後、四十八歳で北海道に渡り、布教活動を行なった。

 慶應二年(一八六六年)に小樽に居を構えた定山は、ある時、鹿が傷を癒す秘湯が存在するという噂を耳にした。彼は、付近に住むアイヌの人々に案内を頼み、山に入ると、とある渓谷にて泉源を発見し、そこに私設の湯治場を作ったのだった。

 そして明治維新後に政府の許可を得ると、定山は温泉の開発に着手した。

 明治四年(一八七一年)には、温泉を訪れた開拓使長官によって、当時まだ無名であった渓谷は「常山渓」と命名されたのだが、やがて定山が「美泉定山(みいずみじょうざん)」と名乗るようになると、この渓谷は「定山渓」と呼ばれるようになったのだった。

 

 札幌市街地から定山渓温泉街には、直行バスが札幌駅前のバスターミナルの十二番から一日に七便運行しており、この直行便は、札幌・定山渓間を約六十分で結んでいる。

 その名も「かっぱライナー号」

 ところで、このバスの名に何故に「かっぱ」が冠されているかというと、それは定山渓の「河童伝説」に由来している。

 定山渓を流れる豊平川は流れが速く、深い淵が点在していた。その中には、奇岩怪石の淵が存在し、その辺りでは水難事故が相次いでいたという。

 ある日、一人の美青年が、その奇岩怪石の深淵で魚取りをしていた時のことであった。青年は足を滑らせたわけでもないのに、引き摺り込まれるように川底に消えてしまった。

 それから一年後、その青年の年忌のことである。

 父親の枕元に件の青年が現れ、今、自分は河童の妻子と共に幸せに暮らしていると告げた。そのため、青年が消えた奇岩怪石の深淵は「かっぱ淵」と呼ばれるようになり、それ以後、この付近で遭難する者はいなくなったという。  

 今現在、かっぱ淵には平成九年(一九九七年)三月に完成した「二見吊橋」が架かっており、この吊り橋は定山渓の名所の一つになっている。


 定山渓の温泉の泉源は五十六箇所あり、その量は毎分八千六百リットル、湧出温度は六十度から八十度と高温である。

 その泉質は無色透明のナトリウム塩化物泉で、入浴すると、肌に塩分が付着し、汗の蒸発を防ぎ、身体を芯から温める効能がある。これは、連日の氷点下の屋外活動によって身体の芯から冷え切っていた隠井にとっては実にありがたい泉質であった。

 さらに定山渓温泉は、貧血症、冷え性、神経痛、切傷、やけど、病後回復、関節痛、五十肩などに効き、この北海道旅行中、重い荷物を背負って歩き続けた結果、肩痛に悩まされていた隠井にとって、これまたありがたい効能であった。


参考資料

「大通り会場」,『さっぽろ雪祭り 公式WEB』,2020年2月17日閲覧.

「定山渓温泉を知る」,『定山渓温泉』,定山渓温泉協会,2020年2月17日閲覧.

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