第3話 記録的大雪!?
「北海道が記録的な暖冬」
多忙な中でも、この情報だけは確認していたため、隠井は、例年の札幌行に比べると然したる防寒対策をしていなかった。
しかし、である。
隠井が乗る予定の札幌行の飛行機に対して、条件付き運航の案内が出ていた。
条件付き運航便とは、到着地、この場合には、新千歳の天候などの影響で、目的地に着陸することができない場合には、出発した成田空港に戻る可能性がある便のことである。
隠井は訝しんだ。
あれ、北海道、暖冬じゃないの? 暖冬でも天候って荒れるもんなの? まあ、成田に戻らずに、無事到着できれば、別に何だって構わないけど、ね。
十九時――
懸念は杞憂に終わり、飛行機は遅れることなく新千歳空港便に無事着した。それに、新千歳空港周囲も思ったほどには雪は降ってはいなかった。
予約を入れている札幌の宿には日を跨ぐ前に到着できれば問題はないので、隠井は、しばし空港散策に興じた後で、日中だと途切れることない長蛇の列のため、時間がなくて、中々入ることができない、えびそばの店、一幻の空港店にラストオーダー時刻直前に入店し、えびそば味噌味を食すことで、先ずは久方ぶりの北海道を味わった。
実を言えば、一幻は東京にも出店している。それゆえに、友人からはこう言われたこともあった。
「わざわざ札幌に行かずに、新宿で食えばいいんじゃね?」
そういった意見に対しては隠井はこう応じることにしている。
「食べられれば、東京でも構わないって話ではなくてさ、ご当地で味わうという点に物語的意義が生じるんだよ。これが分からないのならば、この話はここまで。結局、平行線だから」
時間的都合がつけば本店にも行きたいな、そう思いながら店を出た隠井は、時刻を確認した。
まだ二十一時前だった。
宿も大通り周辺だし、特に急ぐ用事があるわけでもない。そこで隠井は、バスで一時間強かけてまったりと札幌に向かうこと決めた。
バスでの移動中はタブレットで小説を読んでいたのだが、切りのよいところでツイッターを見ると、北海道のフォロワーのツイートがタイムラインに上がってきた。
「大雪警報、『ロシア』やば」
彼は自分が住む札幌を「ロシア」と呼んでいるのだった。
「まじ? 札幌、雪不足じゃなかったっけ?」
そう隠井がリプライをすると、即座にリプライが返ってきた。
「まじです。今『ロシア』なんですよね。気をつけて来てください」
ここまでやりとりした後で、タブレットの画面から目を離し、札幌市街地に入ったバスの窓を通して外を見ようとしたのだが、隠井の視界は激しい雪で真っ白く塗りつぶされていたのだった。
隠井は、大通りでバスを降りると、大雪から逃れるように、即座に地下道に入った。幸いなことに、宿は地下道と直結していたため、そのまま宿に入るや否や、ネットでニュースサイトにアクセスした。
北海道内では、五日午後から日本海側を中心に局地的に大雪となり、札幌市では午後九時までの六時間降雪量が三十四センチメートル、一九九八年の観測制度変更以来の最多タイとなり、積雪は二十一時現在、七十四センチメートルと今季最高を記録したそうで、明日六日も日本海側を中心に暴風雪になる見込みとのことだった。
ニュースを確認している最中にツイッターの通知が届いた。
「追伸 危ないんで、外に出ずに、屋内で大人しくしていた方がよいですよ」
隠井は心の中で叫んでいた。
お〜〜い、雪不足どこ行った〜〜。なして、わいが旅行に来た時、記録的な大雪になる〜〜。
そう思いつつも同時に、隠井は安堵感も味わっていた。
この状況の中、よく無事に札幌まで来れたな、と。
参考文献
『えびそば一幻』,えびそば一幻,2020年2月16日閲覧.
「札幌で記録的大雪 1日で41センチ」,HTBニュース,2020年2月6日,2020年2月16日閲覧.
「一気に平年超え 札幌で20年ぶりのドカ雪!」,tenki.jp,2020年2月6日,2020年2月16日閲覧.
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