極超音速機
「あの女、なにかやっているな」
「ミサイルか、サイロへの攻撃を?」
「あの女が仮に
ブラドの言葉に、一つ一つ可能性を確認するようにヴァレリィは言ったが、それでも不安は拭えなかった。
あの
光学映像とトレースルートで、サイロの正確な位置を確認したと言っていた。それをするという事は、何らかの迎撃手段を有していることを示唆している。しかし、どうやって?
その答えは、直ぐにやってきた。
【北東より
「――極超音速ミサイル? それが貴様の奥の手か
咄嗟にフレアを撒いて
だが、飛来したのはミサイルではない。
「隊長! こいつはミサイルじゃないッ!」
映像を確認したブラドが叫んだ。
果たしてそれは、
レーダー上の光点が、信じられない速度で移動している。
「
呻く様にヴァレリィが言ったその瞬間、ブラド機が両断された。
青い閃光はプラズマの刃。続いて、銀の閃光は翼。
音が遅れて――ギンッ――という金属が寸断される鋭い響き。
ヴァレリィが反応する前にブラド機のコックピットシェルをパージされ、マクスウェル・エンジンの自壊用爆薬へ点火。
爆散する。
「ブラドッ!?」
「隊長ッ!」
ようやく、そう叫んだ。だが撃墜された筈のブラドから、切羽詰まった叫びが返ってくる。
「なんだッ!?」
そこには音の五倍を超える速度でブラド機を撃墜した銀色のA.S.F.が、直角に上昇する姿。そこから更に直角に方向転換。四角い機動のインメルマンターンで、機首をこちらに向ける。
「……冗談だろ……」
だが機首をこちらに向けた銀色のA.S.F.は、パイロットなど乗っていないとでも言うように高Gの影響すら見せず、後部に突き出した尻尾のような部位にブースター・アレイを一度に三枚展開した。
「まだ、加速する気かッ!?」
*
「ああもう、失敗したッ!
ラムジェット方式の急加速。ブースター・アレイを一枚使って、直進していた機体を鋭角に跳ね上げる。
【耐Gアレイ、稼働率118%。無効化
「全然平気!
更にもう一度、ブースター・アレイと
ハイパワーにモノを言わせる強引なインメルマンターンで、残るヴァレリィ機に機首向ける。
対してヴァレリィ機は
「正面からなら、速度差など関係ない!」
三枚目のブースター・アレイが起動。加速。
両機の
「逃がさない、ってぇッ!」
バレル内に生み出した
数カ月前、要破壊対象だった
だがそれはもう、あの時戦ったモノとは別の物であった。
同様に上昇しようとした
ガオンッ――と吠え猛る音が響き渡り、その機首をこちらに向ける。
再び、
しかし今度は上と下。上昇にリソースを取られているヴァレリィ側が圧倒的に不利。
雨のように降り注ぐホーミング・ザッパー。対して、同数のザッパーで迎撃。
落雷並にまで膨らんだプラズマ干渉で空気中の水分が爆ぜて、粉塵を伴わない水蒸気の爆発が幾つも咲いた。
「……俺は……負けるわけにはいかんのだッ!」
落雷のような轟音と、フラッシュのような爆炎を貫いて突き下ろされる極細のプラズマ光線を、
返す刀のように
「
しかし、その先に
「――なん……」
「ヴァレリィさん……だっけ? ゴメンね。勝負してる暇はないんだ」
背後に黒いA.S.F.が迫っていた。
「ちょっと忙しくて、逃げっぱなしだったけど……
申し訳なさそうに言うその顔が、いっそ憎らしい。
だが一切の躊躇なく放たれた
「――ケイ・カミヤァッ!」
「コレは正々堂々の一騎打ちじゃない。そうでしょう?」
ケイは悲しそうに、すれ違う
最初の目的は同じだったはずだ。
電子戦闘空域が無ければ、ただの開発競争だったかもしれない。
そうであれば彼ともゆっくりと言葉を交わす機会も、もしかすれば、共同研究だってあり得たかもしれない。
だけどそうはならなかった。
ヴァレリィ機のエンジンが自壊。爆散する。
「どうにかすれば結果は違ってたかも……でも、悲しんではあげない。私たちは往くよヴァレリィさん」
射出された
「まったく……本当に、新しい世代というやつは……」
負け惜しみとも称賛とも聞こえる言葉が、ヴァレリィの口を突いて出た。
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