羽搏く銀翼
「冗談でしょ……」
「戦闘中に
だが事態が切迫していることには変わりない。反論する言葉に、いつもの勢いは乗らなかった。
「こないだ、
「だから! 私! 戦闘中!」
遅滞防御に入ってからは格闘戦にも戦局にも殆ど動きが無い。プライベート通話の感覚で話してくる
「分かってる。出来るだろ? お前なら。いやお前にしか出来ない」
そういうところなのだが。本当にこの男は分かっていない。いや、分かっていないだけに余計に
そう言われてしまうと、応えずには居られなくなる。
ケイはそういう性格なのだ。なまじになんでも出来てしまうし、効率を即座に暗算出来てしまうから、安請け合いを後悔したことは十や二十では効かない。
特にこの男に関しては。
「わかった、分かったわよ! やりますよ! まったくッ!」
最短で事態の収拾を計算している自分の頭に感情が負けて、ケイは了承した。
「――だけど、私のお尻を追いかけまわしてる、あの二機はどうするの? さすがにデータの無い
最後の障害は
「それは
「
「待て待て、お前、本当に博士が亡くなってから過保護が度を越してるぞ」
いつもの調子に戻りそうになるのを、彼は両手で制した。
「――
マイクの位置を確認しながら、彼はそう言い放つ。
後ろで社長や
「なにがスレイプニルの本領だか。相変わらず莫迦な事やってるんだから……」
懐かしさを感じる古巣の光景に、頬が緩みそうになるのを引き締めて。
「さて……私もいっちょ
終わりの見えない
*
「
二人の様子をまじまじと伺っていたエレインが、そんなことを言う。
「
「それって、ケイちゃんが好きって事じゃないんですか?」
「俺も、そんでケイちゃんも、そうだと思ってたと思うんだけどな。アイツ、ケイちゃんのこと、ニール博士と同列に尊敬してるんだよ。多分」
しばしの沈黙。エレインと
「ごもっとも……」
*
背後で自身を寸評されているとも知らず、
ケイと
「ケイの方は多分、大丈夫だろう――
「耐Gアレイの最終チェックもおっけい。特訓の成果、いつでも見せられるよ月ニイ」
「それなんだが。ケイは
「二機かぁ……一機なら確実。でも二機目はちょっと保証できない、かな」
以前の
「一機目が確実なら大丈夫だ。
「もちろん。お姉ちゃんをビックリさせなきゃね」
「ああ、やってやれ
「うん。月ニイが用意してくれたこの
「頼む」
そう噛締めるように言った後、業務用の声音に変えて、
「――飛行甲板、総員艦内へ退避してください。
最後の一人が扉の前で誘導灯を振って、退避が完了したことを艦橋へ知らせた。
「予定は少し変わったが、やることは変わらない。グラードは関係ない。こいつは最初からニール博士と俺たちスレイプニルの計画だ。ケイにそのことを思い出させてやってくれ。
「了解だよ」
【了解しました
リニア・ダスト・ラムジェットと違い、カートリッジ式の固定レールをラム替わりにして加速する方式から、更に小単位の空間固定素子を作り出し、それを噴出することで加速する。
その関係から、周辺の
その光はニール博士が生み出した、未来につながる輝き。
その光は戦争の引き金、そして人類の空を閉ざしたと言う人も居るだろう。
だけど――
「技術は使いこなす人間が居てこそだ……
蒼い輝きが
「
ゴオッ――という轟音を断続的に響かせ、衝撃波で周囲の海水を爆発させながら、銀色の翼は音を超えて飛び立った。
すべてを振り切る為に。
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