五章
運用試験日
2103年4月5日――フェザント沖、ノースポイント
「
アルテミス・ワークスとしては歓迎すべき状況だが、
彼女は既に
「まるで、さっさと来てほしかったような言い草」
「そんな事はないわよ。何事もなくアルテミス計画が完了するなら、願ったりなのだから」
その割には、その顔には何の感慨も沸いていないように見える。
あの日の襲撃以来、
「でもたぶん、
本来なら歓迎されざる事。だがケイもまた、それを望んでいる。そのことを客観的に自己分析していた。
客観的にそれを考えられる様になっただけでも、あの時、
「襲撃するのなら相応の戦力が必要なのに、今になっても、何の動きも見られないのよ? 今更なにが……」
「社長! 敵襲です!」
緊急の通信プレートが開いて、レーダー観測官が叫んだ。
「ほらきた」
ケイが離陸シークエンスを進めながら軽口を言う。
「どういう事? 哨戒機が撃墜された情報も入っていない。いきなり現れたの?」
「それが本当に、突然、海上に現れたとしか言いようが……」
観測官の言い分ももっともだ。
「
「いつの間にそんな技術を……」
「前回の襲撃は、レベル7
「……まったく忌々しい」
「行くわ」
ケイがそんな自分の合わせ鏡を見ながら、
その浮遊感だけが、心の奥底で燻る残り火を忘れさせた。
「敵の数は?」
そう聞くと、先ほどのレーダー観測官が答える。
「三個
「
「いえ、九機すべてが
「全機? ってことは対外諜報局だけじゃなくて、航空宇宙局の他の戦力まで持ってきてるってこと……?」
「フェザント諜報部から上がってきている情報が正しければ、対外諜報局にSu-77は予備も含んて六機の筈です。先日、
「Ver2.00を潰したがっているのは確実。でも他部署と合同の作戦が予定されていたなら、
「さあ、自分には分かりかねます」
ケイの呟きに、通信が繋がったままだった観測官が律儀に返事をした。
「いいわ、フェザント、アドラー両海軍に至急増援を要請。それからスレイプニルに連絡して、敵……恐らく空母の位置を特定して貰って。あっちには光学観測が出来るの『ハッブルの瞳』があるから、
「了解」
「
続いて離陸した五機の
全員トップエースという訳ではないが、飛行時間千時間を超える中堅を
【敵編隊、分散軌道。三つに分けるようです】
レーダー表示を見れば、
「数の優位があるから、そりゃ乱戦は嫌うよね」
乱戦状態の格闘戦となれば、数の有利よりも個々の技量に比重が傾く。数的優位を維持する為、そして早期決着の為に分散包囲は定跡と言える。
「……やっぱりあの男が率いてるのかな」
「こちらは海上施設を守らなければなりません。
「両翼、任せられる?」
「増援まで逃げ回るだけなら何とか」
「デュプレ、飛行編隊を
【了解。リーダー機および
「もう一度言うけど、増援まで持ちこたえれば此方の勝ちよ。無理はしないで」
「了解」
正面には遠く、望遠CGで三機の機影。
直進している
「先制する。着いてきて!」
【
「撃て!」
【ロングレンジ・ホーミング・ザッパー、Fox-Two】
バレルロールした
*
「始まったか……」
戦端が開いたのだ。
「社長、アルテミス・ワークスから要請、敵編隊の出現位置を『ハッブルの瞳』で観測してほしいそうです」
「ケイちゃん、
「現時点で六対九……
珍しくエレインも口を挟む。
「
「軍人としてなら上位の命令が来てない限り、要請に従うのが筋ですね。それにケイちゃんが言ってるなら、見に行った方が良いでしょうし。相手に増援の用意がある可能性もなくはないかな」
「それって、相手に予備戦力があったら
前回の反省からか、
「……
「撃墜して見せるよ」
「いや、普通に離脱するだけでいい……」
予想以上の事を元気に言った
「なんでこんな自信満々になっちゃったかな」
【今回は
トリスが微笑みながら艦橋に現れる。リニア・バレル・ラムジェットの調律の合間に、博士の人格データを解析してマッチングを行ったせいか、トリスも随分と表情が豊かになった。
「これは、褒められてるのか……? ああ、だけど『ハッブルの瞳』での光学観測が第一だぞ
「わかってるよ月ニイ――
「はーい。
【電磁加速カタパルト同期。離陸後は通常推進を用います】
「
珍しく普通の管制で
青い空へと、銀の翼が舞い上がった。
「よし。スレイプニルはアルテミス・ワークス機の
「了解。微速のまま、
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