CrossRange
戦端を開く赤いロングレンジ・ホーミング・ザッパーが、敵編隊の後方でフレアに吸われて炸裂した。
大きく旋回した三機。敵の隊長機と思しき
――射出。
【敵隊長機、大型ザッパー射出。無誘導、弾頭タイプは――拡散子弾】
「クラスター弾!?」
大戦以前のオースロウで開かれた世界会議で、アドラー等の一部の国を除いて使用禁止条約が合意された『クラスター弾』を模倣した
不発弾問題と民間人被害などを主眼に置いた条約であるし、その時点で存在しないA.S.F.のアレイは、倫理的にも原則的にも禁止対象ではない。
というよりも、そもそもアレは対空兵装では無い。
直進する巨大なザッパーが、途中で四散し、無数の子弾に姿を変える。誘導は掛かっていない。フレアは意味をなさない面の攻撃。
空を埋め尽くす様に、青いプラズマ弾が飛来する。
「
ケイは、通常の回避パターンセットでは回避が困難と判断。
無数の弾の弾道を読んで、回避ルートを算出。弾の間を縫うように
ケイが散弾の雨を切り抜けたところで、僚機に
むしろアンサラーの回避軌道に、良くついて来たと言うべきかもしれない。
「くッ!」
「フレアを! 早く!」
正面からのシールドへの被弾と減速を狙って、既に回り込んでいた敵僚機がホーミング・ザッパーを射出。
一発目はフレア・アレイに食いつかせて、辛うじて回避。
しかし、二発目のザッパーが既に迫っていた。
「デュプレ!
それより一瞬早くコックピットシェルがパージされ、機能停止したマクスウェル・エンジンは自動的に自壊。
ザッパーのプラズマ反応による爆炎と、爆発したエンジンと機体の構造物がまき散らす粉塵を曳いて、コックピットシェルが海へ落下していく。
「パイロットは?」
【コックピットシェルは無事。緊急脱出システムは正常稼働。パイロットのバイタルも問題ありません。着水まで五秒】
「
【3……2……1……着水。パイロット及び
旧来機に輪をかけたパイロットや
古い戦争では墜落したパイロットを殺害するような行為も行われていたため、電子戦闘空域では、その行為も明確に禁止されている。
「ふう。そっちは良いとして……また1対3か……」
「この温い攻撃は!」
ソレをケイはフレア・アレイも使わずに
すれ違い様に
両翼で戦っている
そう、それが正しいの……だが――
「ふふ、やっぱり私は
ケイの心の奥底で燻っていた火種が、ゾロリと、その火勢を増した。
「デュプレ、さっきのクラスター弾をエミュレート。出力も密度も50%ほどでいい、効果範囲優先」
【クラスター弾アレイ、エミュレート……完了――仮名クラスター・ザッパー、スタンバイ】
ケイはクロスヘアを手動操作し、敵編隊前方と最後尾の間に照準。
「撃て!」
【クラスター・ザッパー、Fox-Two】
赤い
先ほど
しかし最後尾の一機を、編隊から切り離すには十分だった。
前方二機は後方での爆発なのでそのまま加速。最後尾から見れば進路上での散弾が炸裂したため、減速と旋回回避を余儀なくされる。
「追撃ッ!」
孤立した
敵機は加速してロール。
そこへ動きを合わせて、敵
「ケイ・カミヤ!」
敵
【敵機、
「普通の戦闘機ならブレイクせざるを得ないけど……A.S.F.はッ!」
僚機とケイの軌道に螺旋を描いて強襲する
「射線予測! 自立シールド・アレイ!」
機体から独立して空中停滞するソレを壁にして、スライサーをやり過ごし、そのまま敵
「こっちの
敵
それだけに、軌道予測は容易だった。
「そこッ!」
逃げる敵機の進路を偏差予測して、その鼻先に赤い閃光が迸る。
それを見たパイロットは、咄嗟にロールとヨーを使って機首を無理やりに捻るが、赤いアークの刃は
辛うじてコックピットへの直撃を免れた敵機は、シェルを射出し、残りは爆散する。
機能停止して着水してしまえば敵味方に関わらず回収し、パイロットと
その為、戦闘不能に寄る自爆は、マクスウェル・エンジンだけでも解析されない為の処置だ。
「こんな程度か!
オープン・チャンネルで恫喝するようにケイが言った。
「言ってくれるなケイ・カミヤ」
「Ver2.00開発計画を妨害したところで、いずれは
「あったさ。理由はあったんだよ――だが結局は、上が過去を振り払えなかっただけだ」
ヴァレリィが冷淡に応じた。
A.S.F.に詳しいモノが見れば、異様な光景に見えただろう。
ケイは残った敵
「理由はあった……?」
ヴァレリィ機に直接ホーミング・ザッパーが放たれる。
ヴァレリィは
「もうその理由は失われたって事だ。ある意味では、この戦闘にも意味はない。お前たちの妨害が功を奏したのだ」
「私たちの……妨害? ……Ver2.00が? いや違う……貴方達の目的は……」
「戦闘中に余計な事を考えながら、これだけの
ヴァレリィが叫ぶ。
上昇していた
半ば強引に
ギイギイと機体が悲鳴を上げ、
ヴァレリィは構わず、そのままブースター・アレイを展開し、下方宙返り《スライスバック》で急降下。
上昇する僚機ブラド機の後ろにつける
機首を強引に持ち上げる《ヴァイパー》。
「
一瞬で攻守を入れ替えて背後に付けたヴァレリィの
その返答とばかりに、機首を上げた
ケイは機体後方に自立シールド・アレイを撒きつつ、ブラド機を追い回すの諦め、
「グラードを舐めるなよ……フェザントの小娘ッ!」
「やっぱり貴方達もなのか……でもそうだとしたら、この攻撃の目的は……」
ケイは愁いを帯びた瞳を、自分を追う
追う側と追われる側。攻守を絶え間なく入れ替えて、A.S.F.は青い空を切り裂いて飛んだ。
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