三様の思惑
「お姉ちゃんは帰っちゃったの?」
検査するために医務室に寝かされていた
「ああ。何か急いでたみたいで、
「月ニイ、お姉ちゃんと喧嘩したの?」
「なんで分かるんだ……」
「月ニイ、ウソが下手だから」
そう言ってまた笑う。
「ウソをついたつもりはなかったんだけどな。アレは喧嘩……なんだろうか」
「どしたの月ニイ」
「
詮無い事だと思いつつも、
それを聞いた
「月ニイ……」
「なんだ?」
「それ、本気で言ってる?」
本気で言っているんだろうな、と思いながら
「いや、俺だって嫌われてるとは考えたくはないけどだな……アイツ、泣いてたんだ……何かを、我慢してたと思うんだ」
「何これ
「なんでそうなる」
「なんでそうならないと思った? ……あはは」
真面目な顔でいう
「あれ……でも月ニイ、泣いてたってどういう事? あのお姉ちゃんが?」
出来た姉が泣いた姿は、
父の葬儀に姿を眩ませたのは、泣き顔を見られたくなかったから? そんな猫のような理由。だけど姉の性格を考えると、それもあり得る話だった。
だとしたら、
「泣いてたって言ったら、怒られそうだけどな。でも何か辛そうに見えたんだ」
「何を言ったの? あのお姉ちゃんが泣くって、よっぽどだよ?」
「それが分かれば、
「ほんとに?」
「ほんとだ。ニール博士のアルテミス計画の全容が大まかにだけど見えてきたんだ。それをケイに伝えようとしたら、逃げられた」
がっくりと肩を落とす
「……ん? アルテミス計画って、お姉ちゃんと
一度目の、あのグラードの襲撃で頓挫しかけたそれを、
「そうか……まだ誰にも言ってなかったな……」
不意に、無音の時間が流れた。
姉はどうして彼を突き放して去ったのだろう。それでも
そんなことを考えながら待っていると、
「そう……だな……
「訓練? A.S.F.の?」
「いや、内容はこれから作るんだが……基本的にはリニア・ダスト・ラムジェットの耐G訓練の延長かな。トリスの調律と合わせてやっていきたい。いいか?」
「それがアルテミス計画と関係があるの?」
意図は分からないまでも、ケイに逃げられた
「ああ。ニール博士が考えていた本当のアルテミス計画の……あ」
本当のアルテミス計画。
もしケイにそう言ったのなら、ケイや
「ふふ、ソレかもしれないね、お姉ちゃんが怒った理由」
「いや、別に俺はアルテミス・ワークスを否定しているわけじゃ……」
「それ、いつかちゃんとお姉ちゃんに言ってあげてね?」
「分かった」
「それじゃ月ニイのアルテミス計画、このスレイプニル社テストパイロット
芝居がかった仕草で
「ああ、頼む」
*
「
ノックもそこそこに、ケイは大股で
「紅茶でも入れましょうか?」
仕事の手を止めて立ち上がるが、難しい顔をしたケイから返事はない。しばらくの間、紅茶を淹れる音だけが部屋に流れた。
紅茶を出して、自分もソファに腰を落ち着けてから話を切り出す。
「侵犯機の迎撃は成功したって聞いているけど、浮かない顔ね」
「ちょっとね……ううん、いろいろあって……」
「いろいろ……グラードの目的が掴めたの?」
少しだけ、
「今回の襲撃、狙いは
「……それは確かなの?」
「スレイプニルが攻撃されていないのも妙だし、襲撃に使われた戦力はA.S.F.三機――一個
「ここの防衛戦力は二個
「
「フェザントの情報部やアドラーの情報局はもちろん、電子戦闘空域による強襲偵察でも何も出てこなかったのよ?」
むろん
「Ver2.00開発が、
「その見解は間違ってはいないと、今でも思ってる。でも……」
「でも?」
「どうかな? グラードにも……居たのかもしれない……」
「居た?」
「父さんや、
ケイにしては珍しく、要領を得ない言葉。
少しの間、
「何れにしても、一カ月後のVer2.00運用試験のタイミングが潮目ね……」
*
「マロウ! 貴様、正気か?」
激昂したヴァレリィが叫んだのは、
作戦を失敗し、部下を失い、失意のまま帰還したヴァレリィはすぐさま作戦室に呼び出され、そしてマロウの口から信じられない言葉を聞いた。
「ここまで来て、フォン・ブラウンを計画変更するだと!?」
「計画変更は上の決定だ……設計局も反対していたが覆らなかった。お前が送ってきた例のA.S.F.のデータが決定打だったよ……」
「あの銀色の機体か……だが何故今になって!」
「
「ふざけるな! 俺はそんな計画の為にここへ転属したんじゃないぞ!」
「わかるだろうヴァレリィ……
冷静を装っていたマロウが、最後は怒鳴るように言った。
それはヴァレリィに向けられたものでも、強硬手段を選択した上層部に向けられたものでも、或いはその決定を覆せなかった自分にですらなく、唯々、無念があった。
「結局、こうなるのか。戦争など誰も望んでいないのに……」
「……もう、決定は覆らないだろう」
目を逸らしたマロウが零すように言うが、ヴァレリィはそれには答えず、作戦室を後にした。
「私も望んじゃいないさ……恐らくは上層部の連中もな……だが……もう手遅れだ……」
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