四章
孤独の夜に
「敵機の空域離脱を確認。電子戦闘空域、解除されます……ふぅー」
戦闘空域の解除を告げて、
だが、事はまだ済んでいなかった。
「お姉ちゃん! 今まで一体、どこ行ってたの!」
戦闘が終了するまで我慢していたのだろう、堰を切ったように
「
「お父さんが居なくなって、僕は……僕は……ずっと一人で……うわああああん」
緊張の糸が一気に切れてしまったのだろう。
「……ちょっと
泣き崩れた
「いやいやいや、スレイプニル全社を挙げてサポートしたって」
と、
もちろん
「珍しく言い分が強引ねケイちゃん」
こちらも珍しく、エレインが
「ごめんエレインさん……
そう言われて、ケイは少し拗ねた様に言った。困っているのだ。情報処理の達人が、妹を泣かせてしまったことに。それが少し面白かった。
「ケイは正解に先回りする癖があるからな……だけど、さすがのアンサラーも、妹の気持ちの正解までは読めなかったって事か、ハハ」
「
「そっちかよ。乗れるのが
「言い訳は聞きたくない」
「いやいやいや、そもそも
「それとこれとは別」
「なんか、あれ以来、圧が強くなってないかお前」
「ふん――
「え、ええ? 良いんですか社長? ケイちゃんって今は部外者ですよね?」
急に話を振られた
「いや、アルテミス・ワークスへは出向扱いになってるんだ。ケイちゃんの給料は今もウチから出てる……だよな、エレイン」
「はい。
「了解。それじゃ、先に
「母親かお前は……大体、そんなに心配なら……」
「それだけ
「いや、だから、なんで矛先が俺と
「俺はついでっぽいけどな。ケイちゃんに怒られるのは任せた」
そう言う
「……トリス、
【了解しました
月臣が
*
「お姉ちゃん!」
先に降りていた
「お姉ちゃん……!」
「
小さな子供のようにしがみ付いて、ケイの胸に顔を埋める。
艦橋から降りてきた
「ケイ……」
「
ケイがやさしく声をかける。
「え、でも……」
「あの
「……わかった」
ケイから離れるのは不満そうであったが、おとなしく従い、
途中、
その度にケイは、笑顔で手を振っていた。
「そんなに大事なら、本当になんで姿を眩ませたんだ。連絡も寄越さないで」
ため息交じりに
「……読み違えたのよ。アンサラーともあろうものが……」
後悔しきり、と言った表情でケイは苦しそうに答えた。
「それは、グラードの狙いが
「
それはつまりケイが、そして
「お前と
「そう。でも莫迦な話よね、自分達を過大評価して、挙句、
よく考えてみれば、ケイも
アルテミス・ワークスでは
しかし、その頑張りが的外れで、挙句、妹の
「
そう言うケイの目はいつも通り澄んでいたが、しかし
ケイだけではない。ニール博士が亡くなった後から、皆、少し生き急いでいるように
それは、
「……なあ、ケイ……」
「なによ」
「……もしかして、なんだが……グラードの連中がどんな目的で、どんな妨害をしてきたって、俺たちのやるべきことは何も変わらないんじゃないか?」
「……
「いや、そういう事じゃない」
「じゃあどういう事よ」
ケイにしては珍しく察しが悪い。それだけ、彼女に余裕がないということだ。
「……お前がしたいのは、博士の復讐か?」
「――――ッ!」
彼女の苛立ちの原因は、恐らく『ソレ』なのだ。それを否定したくて、しかし、胸の内に生まれた昏く澱んだ気持ちは、容易には消えてくれない。
それがどれだけ無為で非生産的な感情であるか、アンサラーである彼女は、この世の誰よりも理解している筈だ。
しかし、それでも、彼女の心に巣食ってしまった『ソレ』は、ずっと彼女を蝕んでいたのだろう。
だが囮として皆から離れたケイと、そして
「私と
「そうは言わない。
その顔を見て、抱きしめようという気にならないのが、ケイと自分の厄介なところだと思う。
もうだいぶ冷めてしまっていた。
ケイが察して、紅茶の缶の前に座る。
「……お前の葛藤は、この際、横に置いておくとしよう。もっと大事な話がある」
引っ叩かれる覚悟で、
「そうね――それで、やるべきことって、何?」
意外にも、と言うとケイは怒るかもしれないが、すんなり話に乗ってくれて
「今のお前を見て確信した。やっぱり最後まで完成させるべきなんだ。博士の描いた夢の果て……アルテミス計画を」
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