焦燥と任務
「ふー……」
嫌な想像や良くない予測を、すべて心の隅に追いやる。
深く息を吸い、これから行う
【近接戦闘セットリスト、ロード完了……ケイ】
ケイの集中のスイッチが入るのを、待っていたかのようにデュプレが告げた。
「オービタル・ザッパー、放出」
【Fox-one。オービタル・ザッパー、Fire】
デュプレの音声に従って
それは警告符丁を伴うも射出はされず、周囲を旋回し続ける。
外部からは、機体を覆う黒い制御板に幾何学模様が走り、それが滞空するプラズマを制御しているのが見て取れるはずだ。
「ブースター・アレイ」
【ブースター・アレイ展開、アフターバーナー】
アフターバーナーと言っても、ジェットエンジンの排気を吹いて飛んでいるわけはないA.S.F.では、その言葉も符丁と同じ。
だが機体後方に現れた、幾何学模様の
オービタル・ザッパーを纏わせたまま
「
【高度10000m。周辺の
しかし、増槽内にVer2.00の
音速を超える黒い影が、空を割いて上昇した。
慌てて上昇した
「往くよ……!」
音速を超える速度で急接近。近距離。
レティクルが敵機の背中を捉える。
「
トリガー。
【Fox-Three】
警告符丁は近接射撃。
用途と兵器としての理屈は旧世代戦闘機のリボルバーカノンや、サブマシンガンと同じ。発射レートによって命中率の向上させ、近接防御に用いる。
しかし、そのプラズマ弾の発射レートは弾体同士に隙間が無いほどで、プラズマの発光も相まって、正に空を斬る光の刃だった。
【敵機カウンター、シールド・アレイ展開。アーク・スライサー、防御されます】
宙を薙ぐように走った赤い光線は、
「防御を吐かせた。十分」
パイロットが対応したか、AIGISが自立的にカウンターしたかは判らない。
どちらにせよ通常、A.S.F.に対して真っ向からの攻撃は
部分防御のシールド・アレイ、全体防御のバリア・アレイ、そして誘導弾を回避するためのフレア・アレイ。
だが、兵装アレイにしても防御アレイにしても、
「――オービタル・ザッパー」
高速落下ですれ違いざまに、周囲を滞空していた細いプラズマの帯が蛇が獲物に食らいつく様に飛んだ。
――キィィン――と、金属の溶断される音が響く。
防御アレイを既に吐き出していた
【敵機撃破】
機体中央を両断し、エンジンとコックピットが切り離された為、バリアを展開しての不時着モードではなく、緊急脱出シークエンスが起動した
「一機目、次ッ!」
【ホーミング・ザッパー、来ます】
定石通り、高度と速度が落ちたところへ的確な攻撃。
「フレア! ヘッドオンからインメルマン、もう一撃」
迎撃は予想通り。だが、予想よりも早い。
ケイの指示通り
至近で炸裂したホーミング・ザッパーのプラズマの散弾が黒い機体を襲うが、表面を覆うバリアブル・アレイがソレを弾いた。
先にザッパーを放った隊長機には目もくれず、そのカバー・ポジションに入っている右翼機に向かって急加速。
「馬鹿なッ! いや、食らえッ!」
【敵アーク・スライサー、直撃コース】
とデュプレが警告を告げるが、ケイは「そのまま行けッ!」と一蹴。
ケイの言葉に従って、
――ギィンッ!――と激しい炸裂音と共に、黒い機体を光線が焼き走るが、表面を覆う赤い幾何学模様のバリアブル・アレイがそれを弾いた。
赤と青のプラズマ粒子が弾け散る。
【バリアブル・アレイ耐久限界。強制解除】
機体表面を覆っていたバリアが消失。
もう一瞬でも長く照射されていれば、
「なん……」
「回避しろッ!」
ヘッドオンで強襲された
「遅い」
すれ違い様に襲い掛かるプラズマの鞭に反応して、僚機の被弾データからAIGISがオート・カウンターを発動。
機体とザッパーの間に、阻むように三角形のシールド・アレイが出現し、対消滅。
だが、それで残りの
「ちくしょおッ!」
「二機目ッ!」
機首を上げてヴァイパーに近い動きで下へ潜り込み、再びすれ違いざまに
そのまま機首の角度を保ちブースター・アレイで上昇、高度を稼ぎなおす。
残るは隊長機のみ。
「――あと、一つッ!」
ケイが――ハッ――と短い息を吐いて、呼吸を整えた。
*
「無茶苦茶な戦い方をしやがる……」
グラード特務十三分隊、分隊長ヤーン・ヴァレリィは部下を失ったことに歯噛みしながらも、冷静さを欠かなかった。
あくまで作戦目標は基地襲撃の援護であり、空戦は
エンゲージ状態の
僚機を瞬く間に葬り去ったこの黒い新型A.S.F.を、今すぐ撃墜したい衝動に駆られるが、自分までもが撃墜される危険を冒すわけにはいかない。
潜入部隊が脱出するまで電子戦闘空域の条件が維持されなければ、地上部隊が大義名分を失い、テロリストとしての汚名を被ることになる。
その汚名は
それは何としても避けねばならない事態だった。
「カルル。地上部隊の状況は?」
【ノイズ暗号による管制塔への侵入、及びA.S.F.格納庫の爆破合図が最後です】
「クラス7の
潜入部隊の装備している
【敵機接近】
「しかし、この思い切りの良さ……こちらの狙いは完全にバレているか」
ヴァレリーは素早く、機体をバレルロール。
赤い
【さらに追撃。種別、持続型セミアクティブ・ショートレンジ・ザッパー。シールド対象指定】
高度差を利用し、一気に接近してきた
「同じ攻撃ではな。焦っているか」
僚機が遺したサンプリングデータを元に、敵機のコンバットパターンを
「俺の部下を瞬く間に撃墜、作戦行動すら戦闘中に看破する状況把握力……スレイプニル社のアンサラー、ケイ・カミヤ……だが……」
ヴァレリーの
隙あらば
【距離を取ります。ショックアレイ散布】
ヴァレリーの空戦機動に合わせて、音と閃光と演算ノイズをばら撒くショック・アレイを高速生成し、後方へ散布、炸裂。
鼻先まで接近していた黒い機影は、たまらず急旋回で回避。
その隙に
が、戦域離脱はしない。
「こっちも仕事なんでな」
撃墜された部下の仇を押し殺し、ヴァレリーの
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