侵入の痕跡
一方、スレイプニル基地格納庫内。
【スレイプニル基地敷地内に侵入者です】
そう音声を発したのは、格納庫内で待機していた
敵襲の報は届いていたものの、
その映像検索に侵入者の痕跡が引っ掛かったのだ。
「さっきのは電子戦闘空域の警報だったよね? 姉さんは上で戦ってる……あ、そうじゃない、ヨーコッ!」
「おうぁ、はいはいはい、なになに? どしたの
唐突に顔の真横に開いた空中映像プレートに、
「ヨーコ大変、侵入者ッ! 多分ヤバい人!」
破られたフェンスや植え込みの比較画像、足跡などを
【侵入者の人数は映像からの推定で十八名。特殊作戦の実行部隊相当です】
最後にトリスがレポートすると、
「冗談でしょッ!?」
と、いよいよ悲鳴を上げた。
*
「
――ガタン――と椅子を蹴って立ち上がった
「警備部、侵入者の痕跡、レポート送ります」
極めて真面目な顔をした
「トリス、警備部詰め所の粒子センサネットワークを走査」
【警備詰め所、及び管制塔歩哨のバイタル、すべて消失しています】
返ってきたのは絶望的なレポートだった。
「
普段からは信じられないような鋭い声を飛ばすと、返事も待たずに手早く引き出しの鍵を開け、拳銃を取り出すとセーフティを外した。
A.S.F.と違い、個人携帯火器は昔から外観こそ大きな変化はないが、空間に存在する粒子センサネットワークを介した3D形成技術の発達で、部品点数は極限まで少なくなり、高い製造精度と相まって信頼性は格段に向上している。
しかしそれでも
「せめて
「フェザントは銃火器の携帯にやたら厳しくて民間企業には無理ですよ。アドラーなら電子戦闘空域対策と称して、
エレインがそんなことを言って混ぜっ返すが、青ざめた表情は隠しきれていない。
「社長も
普段ぐうたらな仕事振りの管制官、
手早く会議机でバリケードを作り、管制室背後の扉を塞ぐと、機材を使って扉側に向けて障害物を作る。
「社長、馬鹿! そこ戸口から射線が通ってる。もっとそっち寄って物陰に屈んで! そこ、扉側の壁には寄らない!」
「お、おう」
おたおたと、
「
皆が部屋の隅にうずくまる中、状況にあまり慌てていない様子のニール博士が、皆に聞こえるように
「ケイちゃんが上空で、電子戦闘空域に突入したタイミングを狙って侵入者があったようです」
まだ少し冷静な
「ってことは、やっぱり連中の狙いは『Ver2.00』のデータですかね――
少し冷静さが戻ったのか、
「俺かよ。軍事関係はさっぱりだぞ」
「お前ならデュプレともトリスとも話ができるだろ。頼んだ」
と、にべもない。
「どうなっても知らないぞ。素人なのに……」
そう言いながら屈んだ姿勢で管制機器からコードを曳き、個人端末から通信ラインを構築する。
「
やり取りを聞いていた
「
「月ニイ。それが、さっきから何度もやってるんだけど、管制塔へ入った痕跡は見つかるのに、侵入者の姿が見当たらないの」
困惑した表情で
「トリス、
【現在も引き続き走査中ですが、現在もスレイプニル社社員、及びゲスト以外のバイタルは確認できません。よって対象は何らかの方法で、
A.S.F.の
よって映像や音声はもちろん、電子機器や人体の微量な磁場に至るまで探知することが出来る。
それが侵入者の痕跡を発見しているにもかかわらず、姿はおろか、バイタル反応すら感知できない状況は異常と言えた。
「もう帰っちゃった……ってことはないよねぇ……どうしよう月ニイ」
「
そう言って一旦、通信を閉じた。
だが
「A.S.F.の
その様子を横で聞いていた
「
技術部のある格納庫の地下はシェルターが併設されているため、電子戦闘空域が展開した段階でそちらへ逃げ込んだようだった。
「技術部の人は無事か……狙われてるのはやっぱりこっちか?」
「……はい……はい……じゃあ……わかりました。
そのまま
「社長! 手ぇ吹っ飛ばされるよ馬鹿ッ!」
「
と、気楽に言った
「クラス7の
「うわぁ……グラードの
そう言いながら
静まり返った管制室内に――ゴン――という音が思ったよりも響いた。
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