領空侵犯機
「こっちはいつでも良いよ」
右手側の空中映像プレートにケイの姿。
「電磁加速カタパルト、準備オーケーだそうです」
と
「やってくれ」
「進路クリア。
通常の航空機同様、滑走路に設置された誘導灯が点灯する。
滑走路中央に敷かれた電磁加速カタパルトは滑走路の三分の一も無く、非常に緩やかな角度が付いていて、その先端は空を向いて少し持ち上がっている。
レールが
瞬く間に電磁加速レールを走りきると、レールの仰角に案内されて、黒い烏が羽ばたくがごとく空へと舞い上がった。
「
計器のデータを見ながら
【調律していただいた空力制御及び姿勢制御システムは良好に作動中。加速を十分に稼いだため
「ちょっと
「いや判ってるけど、俺にも仕事がだな……」
「
ニッコリと笑ってケイ。有無を言わさない時の表情である。
「あー、はい。
「良好よ。あっという間にマッハ3を超えた。これでA.S.F.の巡航速度は大したことない、なんて言っている連中も黙らせられるわ」
ケイの声は弾んでいる。
第六世代戦闘機と比べ、第七世代の超音速飛行はさほど進化していないとは言え、
特に機体全体に
「そりゃよござんした」
「うん、良いね」
「この加速度で最高速度に到達するのは、きっと世界初ですね博士。こりゃ凄い」
「情報力学上、ブースター・アレイの推力は
「……そうなんですか?」
AIGISが専門で、A.S.F.にはさほど詳しくない
「
「興味が無くはないのだけど、
と、エレイン。
「ケイさんだから、あっさりと
「通常機の数倍の量の
「
「博士と
男の身で立つ瀬の無い
なるほど
「まあ、今回の評価試験の目的はVer2.00の方ですから」
「見たところ順調なようだけど……」
「
――
今回は増槽内に充填された新式
他のA.S.F.の
それはA.S.F.に対する電子防御を格段に向上させ、
機密情報のファイアウォールとして考えただけでも、それは絶大な効果がある。
これがお披露目されれば、世界に激震が走るだろう。
それを考えれば『電磁加速レール』や『ハッブルの瞳』などの研究が些事であることは、疑いようのない事実だった。
もちろん
「おーい野郎どもー、本命のVer2.00の戦闘機動テストに入るよ」
未だ加速度データをあれやこれや弄っているニール博士と
「ああ、すまないケイ。早速頼む」
ニール博士が、我に返ったようにケイに答えた。
「しっかりしてよ父さん――ん?」
その時であった。
【試験空域に侵犯機を補足】
デュプレが静かに異常を告げた。
「なん――いや……デュプレ、基地を電子戦防御。周辺空域の戦術情報を全域走査、急いで」
【テスト用の
「かまわない。やっちゃって」
警告を発するデュプレに対して、ケイは即答。
その様子に、管制塔にも緊張が走る。
【――解析データ、データベース該当。識別、
「こんなところに
ケイが不思議そうな顔をする。
対抗するA.S.F.が居なければ、粒子センサネットワーク上の全ての機密を暴くことの出来る
それ故に対抗措置として設定された電子戦闘空域であるし、それ故に軍事行動の情報は漏れやすい。
「設計局の新型?」
一方で、珍しく鋭い声を出したのは管制塔、軍事に明るい
「グラードに計画が漏れてる?」
「それより、フェザント空軍の前哨基地はどうなってるの。アレを素通ししたの?」
慌ただしくなる管制塔内。軍事に疎い
「フェザント空軍より入電。試験にあわせて防諜の為に警戒飛行をしていたASF-1Fムラクモが一機ロスト。警戒されたし、とのことです」
「遅い!」
普段、余裕の塊のようなケイの声が珍しく荒い。
ケイの剣幕に伝達した
「アルテミス計画はたった今から評価試験をするって状態なのに、漏れたにしてもグラードの行動が早いし強硬的すぎる。いったいこれは……」
「どちらにしろ電子戦闘空域は避けられないから応戦しないと。
「社長?」
「先制できるならやっちまえ、責任は取る」
と力強く応えた。
振り返って
しかしその表情は緊張からか、少し硬い。
「試験中止。デュプレ、試験プログラムを破棄。対A.S.F.戦闘用セットリスト・タイプBでロード」
【了解。試験プログラム破棄。武装セットリストを仮想弾から実効弾へ変更します】
「――父さん!」
「なんだい、ケイ」
「このまま、Ver2.00で戦うよ……良いね?」
「どうも僕の研究は戦争から逃げれないようだ……ケイ、Ver2.00はまだ試験もしていない代物だ。無理はしないように」
「任せて、何とかして見せるよ」
ニール博士の心配を余所に、ケイは凶暴な笑顔で答えた。
「……聞いてねえだろお前。ホント無茶すんなよ」
「ケイちゃん、
管制塔の全員が息を飲む。
全員がA.S.F.関連の関係者ではあるが、このような至近での電子戦闘空域の展開は初めてであった。
「――……3……2……1……エンゲージッ!」
【『電子戦闘空域』の成立を確認。トリガーロック解除。
モニターの向こうでは、黒いイカと称される
「こっちはローカル領域で作った
そう言ってケイはトリガーパネルをタップ。
【Fox-Two、リリース】
デュプレの警告符丁と共に、滞空していたプラズマで作られた光のミサイル――ホーミング・ザッパー――が射出される。
自立誘導する荷電粒子は、ミサイルに取って代わるA.S.F.の主兵装で、Fox-Twoの警告符丁もそれに準じている。
ロングレンジ・ホーミング・ザッパーは
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