ニール博士
同日。スレイプニル社内、第三会議室。
「それで、またケイと喧嘩したのかい?」
ハハ、と喉を鳴らすケイとよく似た笑い方で、ニール博士は笑みを浮かべた。
「いや、喧嘩ってわけじゃないですけど……」
ケイと同じ銀色の髪をした壮年の男、ニール・神耶。旧姓ニール・ランディは、国籍はアドラーで、元々は
情報力学が専攻で、粒子センサネットワークシステムの
再婚相手の
「フェザントの
――ブボッ――と盛大な音を立てて、
「ゲホッ、ゲホッ、突然何言いだすんですか」
「冗談だよ。ケイに聞かれたら、笑顔で口を縫われそうだ」
ニール博士はまた――ハハ――と笑う。
「そうだ、
「
娘がシスコンなら、父親も相当な親バカだと、そんなことを考えながら話を変えることにする。
「それでトリスの事なんですけど、とりあえず『ハッブルの瞳』関連の調律は一通り片付きました」
「ご苦労様。頼み事が多くてすまないね」
「いえ、まあ。結構面白い発見もありましたよ。トリスは『瞳』――光学式の索敵システムを、新しい眼と捉えています」
「……
「そうです。制御ドライバと集積データベースが
『世紀の発見』と言うわけでは無いが、こういう『小さな気付き』を得ることは、研究者として幸運であり、愉悦とさえ言える。
「それに等方性の認識システムである
「
「ええ、もちろん」
一息に喋って乾いた喉を潤すのに、もう一度、コーヒーに口をつけかけた
「いいかしら?」
開け放たれたままだった扉の脇に立っていたのは、鋭利な印象を与えるスーツ姿の、二十代半ばの女性だった。
「ああ、
ニール博士が入室を促す。
女性の後ろには、もう三人、人影があった。
「
後に続いたスーツの割にカジュアルな雰囲気を漂わせる男は、スレイプニル社社長である、
「よう
と言って、後ろに隠れていたケイを指さす。
「やあ」
ケイは、一応とばかりに
「我々にとっても、魅力的なお話でしたので。
こちらはレディスーツがよく似合うブロンドの女性。
スレイプニル社は設立後、たった三年そこそこでカドクラの傘下に入り、00年度A.S.F.開発計画機の評価試験を任されるまでになったのは、彼女の手腕によるところが大きく、実質的な決裁権を持っているともっぱらの噂だ。
「ご無沙汰しています先生。アルテミス計画の実機テストに『レイシキ』を当てることになったので、
00年度A.S.F.開発計画機――通称『レイシキ』は試作ナンバーを持つフェザントの次期主力A.S.F.開発計画で
コンペ自体は
「『レイシキ』を使うってことは、パイロットはケイがやるのか?」
そういってケイの方を見ると、露骨にそっぽを向かれる。怒っていると言うよりは、機嫌が悪いといった風。
機嫌が直るのを待つしかなさそうだと、
「相変わらず、
ニール博士にとっての
「私はケイさんや
「散布炉関係の研究は、君が一番いい着眼点を持っていたよ」
二人は和やかな雰囲気で歓談している。
「えっと……俺は席を外した方がいいですかね、エレインさん?」
「いえ。
「あー……話してる途中でヘソ曲げちゃったからな……」
そう言いながらケイに目をやると、表情が「あッ」と声を出さずに語っていたので、
「お前ね」
そう小声でケイを咎めると、
「ごめんて」
と、意外にも素直に謝罪が返ってきた。
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