#28


「————オーディが、自首したよ」




 強張っていた彼女の顔は、大きな衝撃を受けていた。血色の悪い顔は、さらに青ざめている。


「どうして……」


「彼は、この一連の件はすべて自分がやったことだと証言しているんだよ。かつて教会で処刑された魔女の怨念が、自分に憑りついていると……彼の狂言は、すべて君を庇うためだろう。彼の身柄は本部の拘置所で拘束されている」


 やはり彼女はこの事実を知らなかったのだろう。狼狽と悲しみの色が、澄んだ瞳に表れている。


「そんな……神父様……!」


 今にも彼のもとへ駆け出していこうとする彼女の腕を咄嗟に掴んだ。抵抗しようとする彼女に構わずその手に力を込めた。


「助けに行くのか?」


 ハッとした表情を僕に見せる。自分がやろうとしている行動の意味を理解したのだろう。腕の抵抗が弱くなる。


「彼を助けに行けば、友人の無念を晴らすことはできなくなる」


「————ッ! だけどっ」


「この件はあまりにも大きくなりすぎた。誰かの手で落とし前をつける必要がある……そうでもしなければ警察の面目が立たない」


 あまりにも彼を突き放した言葉に、彼女の肩が震えていた。その向けられた敵意が、鉄に塗り固められたはずの胸を刺した。それでも……。


「何故ッ……あなたは国のために、一人の友人を見捨てるというのですかッ!?」


「これは彼自身が選んだことだ。彼がこの国のために犠牲を厭わないというなら、僕は黙っていよう」


 誰かが役目を果たさなければならない。ここまで大きくなってしまった事件の終着点のために。そのためには、魔女に呪われた彼という存在が適役だろう。この国の混乱は大きくなれば、やがてこの国を滅ぼすことになる。



「でも……!」


「……それに僕も同じだ。君が愛した友のために命を賭したのなら、僕は君の守るべきもののために、友も国も捨ててやろう。僕なら君を逃がしてやれる」


 僕の口から出たその提案に、彼女はエメラルドグリーンの瞳で心の揺さぶりを見せた。


「どうして……あなたのような方がそこまでのことを……」


「……たぶん、子供を庇う君を見つけたときから、君に心を奪われていたんだろうね。君を魔女と疑いつつ、一緒にいるうちに心のどこかで君が魔女ではないことを祈っていた。君が見せてくれた表情が、すべて嘘だとは思いたくなかったんだ。これまで罪人に情を移すなんて一度もなかったけど……スコットランドヤードの捜査官失格だ」


 どこまでもその娘のために命を賭して戦い続けた彼女を、この国から、魔女から、庇ってやりたいと心を突き動かされた。魔女にはそれだけの惹きつけられるものがあった。

 いつも距離を置いて見守っていた彼女の横顔が、今は手に届く距離でまっすぐに僕を見つめている。愛したのが魔女でも、彼女を危険に晒したくはない。居場所を失くした彼女を——……。



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