最終幕 さようなら

#27


 これまでの生い立ちを語り終え、魔女はそっと口を閉ざした。

 恐らくはこちらの反応を窺っていた。あまりに壮絶な内容に動揺はしているが、この顔に仮面を貼りつけるのは難しいことではない。

 死んだ友人のためにそこまでのことをする彼女の執念には、憐れみさえ憶えてしまう。



「……友人のために、そこまでしたのか」


「ええ、そうよ。普通の頭なら異常だと判ることだ。ここにいる私は、何千という魔女を殺して生き延びた。同胞殺しだけでも重罪だというのに、その常軌を逸した異常性をアヴィスの魔女と同等だとなじる者も多いだろう」


 アヴィスの魔女……。そういうことか。

 彼女の並外れた魔力と、これほどの混乱を起こした魔女の冷酷さを、その魔女の名にちなんで揶揄した言葉だ。

 魔界による人類の制圧かと思われた一連の出来事が、すべては一人の魔女が引き起こした復讐劇だとは……。この美しい魔女が数知れない魔女の血を浴びてきたとは、素直には思えなかった。


 しかしこれまで彼女が話してくれたことは、紛れもない真実で、偽りのない彼女の言葉なのだろう。


「捕まればどの道死ぬだけだ。なら生きている私が、あの娘のためにできることをしてやりたい。身を隠すのに教会を選んだのも、あなたがきっと予想している通りだが……彼には悪いことをしてしまったと思う」


 教会はかつてから魔女が嫌煙する場所だ。だから魔女があえてあの場所を選んだ理由は、大方予想がつく。

 これまで魔女の冷酷な一面ばかりを見てきたが、その表情からはあの神父にそれなりの信頼を寄せていたようだ。世話になった相手には、義理堅いようだ。



「……オーディには、何も言わずに出てきたのか」


 しばらく黙り込んで、質問に答える代わりに言った。


「……とてもよくしてもらった。逃げたところで、一度は力尽きた。あそこは魔女には嫌な場所だと思っていたが、温かいところだった」


 ……彼はそういう人間だ。僕が知る限りの人間で、彼ほど根っからのいい奴は知らない。

 あの場所は、一人の魔女にも居心地がいい場所だったのだろう。彼なら本来の姿も受け入れてくれたかもしれない。


「だが、あそこには長く居すぎた。長居は禁物だ。あなたにもきっと初めから疑われていた。私はもうあの場所にいるべきではない」


 赤い実を詰めた籠を抱きかかえて、彼女は言った。一体どこに逃げるというのだろう。教会から逃げ出した格好のまま、この下界に再び彼女を受け入れる場所など在るのだろうか。


「この混乱に乗じて、他の魔女が下界の人間を襲っていることも聞いている。人間の素材を使うことで、魔術の完成度は格段に跳ね上がるからな。今では規制が厳しい分、この機を逃さんとする魔女は少なくない」


 たった一人の親友の死が、これだけの不幸を招いた。

 けれどこの国で、犠牲となった一般市民もいる。この事実は重く受け止めなければいけない。



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