#26


 その夜、シルビアは三人の魔女を殺した。

 黒魔術において禁じられたやり方は、その後彼女の身体を蝕んだ。身体中に黒い痣が浮かび上がり、徐々にそれが広がっていく。

 禁じ手に頼った代償だ。死は時間をかけてシルビアの身体を壊していった。

 別に今更怖いと思うことはない。死を恐れてはいなかった。内臓をぐちゃぐちゃにかき混ぜられるような激痛が、やがて意識を奪っていく。そしてこのまま死ぬだろう……。


 バラバラにした他の死体と同様に草地に寝転んで、腐っていく自分の身体を見つめていた。

 あの娘もここで、最期を過ごしたのだろう。こんなに寒い場所で。どれほど怖かっただろう。悔やんでも悔やみきれない。

 目を閉じたら、あの娘に会って謝ろう。今度こそ、離れないと誓おう。



 その草地で腕を伸ばした指の先に、何かが転がっていた。暗がりに小さなシルエットが浮かんだ。曇りがちな空の僅かな月明かりを頼りに、それが何かわかった。

 見つけてしまったそれを、シルビアは僅かな力で手に取った。呪いのせいでぼんやりとした意識には、まだ希望に縋る意思があった。それを持ち上げて、夜空に掲げた。


 あの娘が育てていた、赤い実————。


 潰されて、しわくちゃになったそれは、確かに見覚えがある。

 多くの人々を救おうとした、あの娘の無念の形。とうとうそれも叶わなくなる。

 もう一度、手に力が込められた。あの娘の無念。晴らしてやらなければ。何を犠牲にしても、理不尽に殺されたあの娘のためにと決めたのだから。



 復讐のために隅まで読み込んだ黒魔術の書の内容を思い出す。

 ひとつだけ方法がある。それはあまりにも横暴な、身勝手な、シルビアが最も嫌う理不尽な死だ。

 そして、すべての魔女を敵に回す行為だった。




 それでも……と、シルビアは思う。

 躊躇う必要などなかった。失望したこの世界に……。


 あの娘が悲しんでいる顔を意識から振り払い、シルビアは身体中の魔力を生きるために行使した。彼女が追放された魔界には、血の噎せ返るような臭いと、すべての魔力を吸い取られ干乾びた魔女の死体で埋め尽くされる惨劇の光景で溢れた。



 すべては、たったひとつの愛のために。


 行き場をなくした魔女は、友人が残してくれた赤い実を手に、人間界へと降り立った。



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