#21


 何も答えようとしない彼女を待ち続け、この日の冬の寒さがじんわりと胸に沁みる。

 ポツポツと白い雪が降り始め、しばらくしてエメラルドの瞳は僕を見つめて厳かに言葉を選んだ。




「いいえ。私は、アヴィスの魔女ではない」



 だが……と彼女の言い分は続く。




「かつて実在したアヴィスの魔女は、数万の人間を惨殺したという。そして私は、それに匹敵する数の魔女を殺し、故郷から追放された」


「魔女を……?」


 魔女の一面を顕わにした彼女が告白したことを、すぐさま受け止めることはできなかった。

 彼女は、アヴィスの魔女ではない。だが、魔女を殺して国を追放された……と。

 話を整理して耳に入れても、彼女についての謎が増えるばかりだ。彼女が魔女を殺した動機、そこから赤い実に繋がる背景とは一体。果たして何人の魔女を殺めたのか。慈悲深い彼女からそんな姿は想像できなかった。


 そこにたどり着くまでの経緯を、彼女はゆっくりと語り始めた。



「我が国でも、同胞殺しは重罪に値する。極刑は免れないだろう。アヴィスの魔女の暴動以降、両国間の均衡を保つため魔界は魔女の人間界の入国制限や、人体やその血液をすべての魔術において利用することを厳重に禁止した」



 魔女の世界にも、こちらにあるような厳格な規則が設けられている。魔女の世にもまともなルールがあるとは思わなかった。15世紀のアヴィスの魔女の一件以降、モラルや魔術使用に関わる厳格な掟を政府が定めたようだ。

 そして実際に規制が徹底される前は、魔女による人攫いが後を絶たなかった。魔術には人体の臓器や血を使用することがある。事件後にはそれらの不安が人々の間で高まり、魔女裁判は何世紀にも渡り横行したのだろう。


 そんな背景があった故に、ここ近年でパタリと魔女による干渉がなくなった。

 向こう側もこれ以上の犠牲を払いたくないというのは同じか。




 しかし、彼女自身に関わることは、まだまだわからないことばかりだ。



「……何故、そんな罪を犯した?」


 僕からその問いを投げかけられるが、魔女はただ俯きがちにしている。その暗い面持ちには、後悔の色を隠しきれていない。



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