#20


「栽培にあまり興味はないけど、気になってしまったものでね。君に黙って一房を拝借したことは謝るよ」


 怪しい行動をしている彼女にここまで付き添うフリをして、その動向を探った。

 その真意は自分の中にある違和感を払拭するため、魔女だと確信するため……しかしどこかで彼女が魔女ではないことを信じていた。

 実の栽培に専念する彼女の隙を見て、そのひと房を摘み取って持ち帰った。持ち帰ったものは、研究室にいる彼に預けた。



「君から無断で盗んだこれを、うちの研究ラボで隅から隅まで調べてみた。担当した研究員の男が興味を示していたよ。何せ、これまでまったく記録にない代物だったからね」


 疑いは、確信になりつつある。最早彼女を庇うことにはならない。自分に何を言い聞かせても無駄骨だ。気のせいだと不確かなことを言っても、明白な証拠を前にして意味など為さない。



「君の話を信じるなら、そんな滅多な代物を一体どこの商人から手に入れたんだろうね。だけど、君の話を鵜吞みにするのは軽率だろうな。だからはっきりしよう」


 自分の中で明確に答えを出そうとするより、彼女と正面から向き合うべきではないかと考えた。何が彼女の望みか。ただの人間の僕には、そうするしか彼女の気持ちを推し量れない。



「教会のシスターである君が、そんな代物をどうやって手に入れられたのか。考えられる要素は限定されてくる。これは君達の世界にある種だろう? それを使って国中に疫病を蔓延させようとでも企んでいたのかい?」



 マリアは、何も答えようとしない。これだけ挑発していると言うのに。

 感情を必死に押し堪えようとしている表情で、何も言わず僕を見つめた。彼女に敵意を向けられるのは、胸が痛んだ。こんなことは今まで当たり前だったんだが、どうかしてしまったんだろうか。






「君が、アヴィスの魔女なのか?」



 やはり魔女の力は、強力なのだろう。



 僕に疑いの目を向けられることを、彼女はその見透かせない心のどこかで悲しんでいるのだろうか。


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