#19
「……いつから」
「さあ。いつからかな。だけど君を一目見た時から、引っかかるものはあった。魔女には、人を虜にする魔性の力がある……」
いつかロイスに忠告された言葉……。
彼の忠告通りだ。彼女との距離が近づくにつれ、意識も理性も支配されていくようだった。まるで無意識に自分の首を締め上げているような感覚だ。
初見から他とは異質なものを彼女から感じてはいたが、上手く言葉にすることはできなかった。いつしかそんな魔女の魅力に憑りつかれていた。この森で二人きりの時間を過ごす中で、彼女の表情やエメラルドの瞳に釘付けになる瞬間が何度もあった。
だからあの時、彼の忠告に素直に頷くことが躊躇われた。冷静な思考をする自信がなかった。
灰色からやがて白になる景色の中で考えた。冷たい粒が肌に溶けていく。
もし君がただの人であれば、これまで捕まえてきた連中と同様に何も感じなかったのだろうか。
「君は僕にここに来ることを、あの神父には内緒にしていると言ったはずだ。だから君がここに来るチャンスは、僕と連れ添って買い出しに行くときだけ。けれど君が実際にここに足を運んだ回数は違う。この間のミサでオーディと話をしたとき、彼の証言した回数と、僕が君に付き添ってここに足を運んだ回数は残念ながら一致しなかった」
あの証言のときに、彼も薄々何かを察しているような神妙な表情だった。普段は無駄に空元気な分、彼の変化はわかりやすい。神父として誇りを持っている彼が、あんなに思い詰めている姿は見たことがなかった。
「そもそも前提がおかしな話だよ。君はその実を街で偶然売っていたと話していたが、どうして街から遠く離れた辺鄙な場所を態々選んだ? あの教会の周りには、君がコソコソ隠れて栽培できる自然だって十分にある。まるで人間の目を恐れているかのようだ」
そこまでして本来は隠したい何かがあることは明確だった。偶然僕があの場に居合わせてしまったから、彼女は苦しい偽装工作を余儀なくされたのだろう。
「ねえ、マリア。君がそこまでその赤い実にこだわる理由は何だ?」
丹精込めて彼女が世話をした赤い実は、籠の中で立派に色づいていた。
あの頃はその意味など知る由もなかった。
彼女が下手な芝居を打ってまで、どうしてその赤い実を育てたのか。
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