#10

 

「このことは、どうか神父様にはご内密に……収穫まで、内緒にしておきたいのです」

 

 悪戯を企む子供のような目で、見上げられた。別に僕から彼にこの件を告げ口する気も起きないけど、こちらの反応を窺う彼女に言った。

 

 

「彼には黙っておくよ」

 

「ありがとうございます」

 

「けど、ここにはしばらく来ない方がいい。魔女の件で国内には包囲網が張られている。君もあまり一人で出歩かない方がいい」

 

 この間の一件がある。アヴィスの魔女。

 教会の人間であれ、どうにかできる相手ではない。街でうっかり魔女に出会わないでおくよう、出歩くのは避けるべきだ。

 僕がいち警察官としてそうやって説得してみるが、しかし彼女は駄々をこねた。

 

 

「せっかくここまで実りましたのに、見捨てることはできません」

 

「君の身の安全を優先するべきだよ」

 

 どうやら相当の愛着が湧いてしまっているらしい。参ったな。彼女の身に何かあった時は、あのお人好しの神父が責任を感じるだろう。あと僕まで巻き込んでそれこそ魔女狩りだと喚きかねない。

 

 

 

「では、ここにまた来る時は、ぜひアルフレド様も。二人なら、きっと安全です」

 

 

 名案だと、彼女は言った。彼女は時に子供のように無邪気に振る舞う。

 

 ちょっと待ちなよ。何勝手に決めてるの?

 

 

「君、人の話聞いてたの?」

 

「はい。アルフレド様とご一緒なら、きっと安心ですもの。ダメでしょうか?」

 

 

 出会った頃はなかなかのお人好しシスターだと思っていたけど、そういうわけではないのかもしれない。無神経で図太いと言う方が合っている。

 

 

「それ、僕には全くメリットがないんだけど」

 

「そうですね、どうしましょう」

 

 

 可愛らしく小首を傾げる。白々しい。

 こんなことに付き合うほど暇な人間じゃない。彼女の茶番にこれ以上付き合う気もない。しかし今は、ひとつの確証を見つけた。

 出会った頃から君は孤児達を庇い自己犠牲を払い、記憶を失くし、そんな君からは不思議と目が離せない。

 

 

「それがちゃんと実になったら、君にご馳走してもらおうか」

 

 

 ここまで来たら、白黒つけておくべきことだ。

 しばらくは心労を抱えてろくに寝られないことを悟り、その言葉を投げ捨てた。

 一番のお人好しは、僕のことかもしれない。

 

 

「そういうことでしたら、おまかせください」

 

 

 

 それでも宝石のような瞳が三日月のように微笑むと、徹夜の疲れも少しは和らぐような気がした。けれど騙されてはいけない。

 いつからか彼女に心惹かれるようになっていたことを、この頃はまだ知らぬふりをした。


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