第三幕 この想いは実らずと知りながら
#9
魔女に対する厳戒態勢は徹底していた。国民や警官が魔女に襲われる事態は避けねばならないが、その反動で国民の間では魔女裁判を起こしかねない動きがあった。
二度目の惨劇が起こる恐れがあった。国民による魔女狩りは、何としても防がねばならない。一度モラルパニックが起きてしまえば、容易には止められなくなる。
あの魔女の襲撃から二週間、市内の外れまで別件の調査に訪れていた。その帰り、通りかかった森林に誰かが侵入した痕跡を見つけた。今朝来た時にはあっただろうか。森の奥は鬱蒼とした木々が生い茂り、さらにこの辺りの暗い霧で一層人が寄り付かない空気を漂わせている。
こんなところに好んで寄り付くような輩がいるのか、確認のために一度足を踏み入れた。
「マリア?」
足跡の痕跡を頼りに、森の中を進むと木々が密集していない拓けた場所に出る。そこに教会のシスターの格好をした彼女がいた。
どうしてここに彼女がいるのか見当がつかず、思わずその名で呼んだ。すると彼女がこちらを振り返る。
「ア、アルフレド様」
困惑した彼女の表情に、こちらもどう出ていいかわからない。
だが、少しして観念したように彼女の方から事情を話してくれた。
「少しでも節約になればと思いまして、神父様には内緒でこの実の栽培を始めたんです。やっと最近になって実りをつけたところなんです」
枝に実るガーネットの粒のようなそれを慈しむ目で、シスターはこぼした。人知れずこの実を育てていたらしい。まだ小粒な実からは彼女と同じ香りがした。
「この場所は彼に伝えていないのかい」
「はい。実がなるまでこのことは誰にも言うつもりはありませんでしたが……」
過保護な教会の神父は、シスターの帰りが遅いのを心配していることだろう。教会で地団駄を踏んでいる奴の姿が容易に想像できる。
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