#8


 シスターを教会まで送った後の一人の帰り道。

 アヴィスの魔女の資料を片っ端から目を通して今後の対策を練ることに耽りながら、街灯が少ない歩道を歩いていた。暗くなると、最近は少し冷えるようになってきた。

 

 霧が辺りに充満した道を悠長に歩いていくと、夜の風は次第に髪を掻き乱すほど威力を増した。歩道脇の街路樹が、ザワザワと擦れた音を立てる。

 ふと宙を見上げると、大きな雲が微かに明るい月さえ覆い隠してしまった。そして少しすると雨粒がパラパラと髪を濡らした。

 

 

 

 

 

「ア…………ヴィ……ス……」

 

 

 瞬きの一瞬に、それが視界に飛び込んだ。

 霧に紛れた暗闇の中から、黒い魔女は突然現れて、僕にめがけて飛び込む最中に何かの呪文を唱えた。咄嗟にその場から飛び退き、歩道脇の茂みに逃げ込んだ。その一瞬を突き安全装置を外す。着地するとすぐさま魔女に向けて引き金を引いた。弾は魔女のこめかみを撃ち抜く。

 

 できる限り生け捕りにしたかったが、なかなかうまくいかない。砂と化した魔女の亡骸を見下ろし、魔女があの時こぼした言葉を反芻する。

 

 

 

 

 

 アヴィス……。

 

 

 

 

「やはり……」

 

 

 

 魔女が襲ってきたのは、偶然ではないだろう。アヴィスの魔女の亡骸を手に入れるために、一番情報を得ているはずの警察関係者に狙いを定めている。

 

 奴らはゆっくりと着実にアヴィスの魔女に迫ろうとしている。それを何としても阻止せねばならない。その真の目的も。

 早急に対応を考えなければと、歩道脇にある公衆電話に入り本部とコンタクトを図る。通話を切ると、暗い霧が立ち込める中を警戒しながら警視庁へと向かった。

 

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