#6

 

 知る限りの魔女裁判に関わる情報を脳内から掘り起こすと、研究室のボロ椅子に腰掛けた彼が顔を覗き込むように首を伸ばした。誰かに聞かれるはずもないのに、声を落とした彼の話に耳を澄ます。

 

 

「実はな、二日前に魔女に襲われた被害者がこんな話を担当した捜査官に漏らしたそうだ」

 

 ブロンズの髪と同じ色の双眸が、眼鏡を挟んで見据える。近くで見ると度がきつそうだ。もう少し彼に似合う眼鏡に変えるようにするべきだと思った。

 そんなこと彼はお構いなく、近日多発している襲撃事件の情報収集に頭がいっぱいなようだ。

 

 

「その魔女は、血眼になって何かを探していたそうだ。アヴィスの魔女……そいつは執拗に魔女の名前を叫んでいたそうだ」

 

 

 埃臭い研究室に、その話は聞き間違えようもなくこの耳に衝撃の刃とともに入ってくる。

 アヴィスの魔女……その名をこの時代に聞くことになるとは。

 

 

「アルフレド。これはまだ可能性の話だが……」

 

 彼がこれから言うことが、嫌でもわかってしまう。これから話すことは恐ろしい想像に過ぎない。

 

 

「……魔女裁判にかけられたアヴィスの魔女の亡骸は、その後国のカトリック教会で保管されている。そして彼女達は、アヴィスの魔女の復活を企んでいる、と?」

 

 

 魔女は死後、その亡骸は真っ白な砂となり、本来の魔女の姿は影も形もなくなってしまう。

 アヴィスの魔女の亡骸は、魔女裁判の戒めとしてロンドン市内の中心部にある大聖堂に保管されている。後世に受け継がれるべき負の遺産ということだ。

 

 

「その通りだ」

 

 

 

 だが、魔女達がそれを狙っているなら、事態は想定していたより深刻だ。彼女達がアヴィスの魔女の亡骸を奪い、彼女達の魔力をもってアヴィスの魔女の復権を企んでいるとしたなら、再びあの惨劇が英国中を血に染める。

 それ以上の最悪な事態に陥ることも考えられた。100年前までの悲劇よりも恐ろしい事態が……魔女の暴挙は国内にとどまらず、世界中が恐怖に陥ることになるやもしれない。

 


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