#3


 せっかくだというので聖堂の中へ通されたはいいが、これといって痺れるようなものはない。歴史は長い分、聖堂のあちこちは錆びれてしまった部分も多い。

 祭壇の真ん中で堂々と佇んでいる十字架が、ここを訪れた様々な人々の願いや遠くなるような時間を吸い込んで、物寂しげに光を反射していた。

 

 

 

「あの」

 

 背後から彼女に声をかけられた。

 反響する聖堂内でそれを無視することもできないので、軽く視線を返すくらいのことはする。声の主はやはりあのシスターだった。

 

 

「先程は子供達を庇っていただいて、ありがとうございました」

 

 聖堂の主な出入り口である大扉の前に立ち、お礼を告げる彼女の女性らしい声がこの聖堂内に響き渡る。祭壇前にいる僕のもとまで随分距離はあるが、お陰で彼女の声はよく通った。彼女は続けるように言った。

 

 

「オーディ神父から、少しだけお話を伺いました。神父様とは古いご友人とのことで。危ないところを助けていただいて、本当に感謝しております」

 

 律儀に何度も頭を垂れる。そこはやはり教会のシスターだけはあるのかな。彼女を見ていると、誰に対してもお人好しすぎるのではと余計な心配がかかる。

 

 

「あんなのただの腐れ縁だよ。僕は基本的にあの男のことが嫌いだから」

 

「えっ」

 

 彼女は思わず顔を上げ、不貞腐れたような顔をした僕を見据える。そんなつもりはないけど、周りからはよく不貞腐れているみたいだと言われるからだ。

 

 

「あそこで君達を助けてあげたのは、気まぐれだよ。そうだね、君が可愛かったから」

 

「へっ?」

 

「冗談だよ」

 

 

 ちょっとは本気だけど、まあそれは置いといて、彼女の肩の力が少しは抜けてくれたらいい。立場上、仕事でも人から謙遜されることが多くて疲れてしまう。

 

 

 

「そんなに他人に気を遣わなくていい。それが君の立場上仕方ないとしても、理不尽な横暴をぶつける奴らにいいように従う理由にはならないよ」

 

 警官二人にいいように言われている姿を見ていて、彼女の先が思いやられると思った。記憶もない状態だというのに、神に仕えている身だからって、誰にも控えめで、彼女の尊厳がなくなってしまうことはあってはならない。

 その点は、あの神経の図太い神父を見習うべきだ。

 

 

「でも、恥ずかしながら私にはこれくらいしかできることがありません。アルフレド様は、お優しいですね」

 

 少し話をしてみたが、彼女は変わっている。これくらいのことが彼女には親切なら、彼女はこれまでどれほどの冷遇を受けてきたのか。彼女はこれまでどんな人々と関わり世間の荒波に研磨されたのか、その背景が気にかかる。

 

 

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