第1章~隠された嘘と青春~

第8話

翌日、いつものようにマフラーと手袋で厳重防寒で登校をする木原。

 桜並木の道は、昨日よりも花びらの散っていく量が多い気がした。

 自転車登校なので、歩く人達よりも風を切るので疲れる。

 あと少しで学校が見える、という所で見覚えのある男が歩いているのが見えた。



「おーっすユウスケ。今日は歩きか?」



「⋯⋯まぁな。昨日の帰りに自転車パンクしちまってさぁ」



 ユウスケは楽しげに言った。ユウスケが自転車の修理をしないのはいつもの事である。何故しないのかと思うところもあるが、何故か聞いていない。



 たまたま合流した二人は仲良く学校へと向かった。



「⋯⋯てか昨日の歓迎会、まじで何だったのかねぇ」



 綾宮と前嶋が何故かは知らないが良くない雰囲気となり、さらには歓迎会らしいこともひとつもせずに、店員に追い出されて終了したのだ。歓迎会とは何だったのだろう。

 木原は自転車を止め、鞄を取り出しながら言った。



「でもな、綾宮さんをこれから毎日拝めるのはまじで嬉しみだわ」



 ユウスケは目をキラキラさせながら高揚している。ユウスケ自身、それが目当てで綾宮を入部させたのであり、鷺ノ宮はおまけみたいなものである。

 学年一の美女と部活が一緒なんて、確かに嬉しいことだが何だか漂っている空気が重い。



「てかさぁ、ユウスケ。前嶋のカッターナイフのこと良くそんなに知ってたな」



「⋯⋯まぁ、部員のことをよく見てないと部長失格だからな」



 女子高生が自前のカッターナイフを常に持ち歩いている時点でおかしいのに加えて、それを毎日かは確証が無いが、磨いている。そしてさらにそれを脅し道具と言った前嶋もおかしい。冗談にしろ、普通そんなことは言わないはず。

 入部してから今日で三日目。まだまだ謎が多い前嶋をこれから観察するのは必須事項である。





 そして二人はチャイムと共に、学校へと入っていった。

 遅刻である。















「あ、先生私がそれ運びますよ!」



「おお、前嶋か! 助かるよぉ!」



 大量の新しい教材を職員室から運び出す前嶋。

 その光景を見ていた木原はやはり何かおかしいと感じていた。

 こんなにも気が利いて、優しい女の子がカッターナイフを脅し道具として持ち歩くことがどうにもおかしい。

 前嶋は一人で安定感は無いが、大量の教材タワーをクラスに運ぶ。




「よぉ、前嶋。それ、持つよ?」




「あ! 木原先輩!! 大丈夫ですよぉ!! これは自分が運びますので。お気遣いありがとうございます!」



 そう言って前嶋は一目散に自分の教室へと歩いていった。

 前嶋は小柄なのによく頑張る女子である。可愛くて、しかも優しい。どう考えても完璧な女の子である。


 しかし、木原の頭にはカッターナイフが過よぎるのだ。最もそれが似合わない、と言っても過言ではないだろう。

 木原はそう思いながら自分の教室へと帰った。



 その時に聞こえた前嶋の悲鳴から、タワーを崩したのだと予測できた。















「とんでもないくらい悩んでんの」


 木原はいちごオレを飲みながら椅子をガタガタさせながらだるそうに言った。



「まぁ一番早いのは前嶋に聞く事だけどな」



「いや、無理だろ」



 ただでさえ同じ学年でもないし、カッターナイフなんか脅し道具に使ってる前嶋本人に聞くなんて、自殺しに行くようなものである。

 一番手っ取り早いのは部活中に彼女を観察することである。部活中なら移動しないので観察しやすい。

 ストーカー予備軍木原は自分の考えに満足したのか一人で喜びながら頷いた。



「⋯⋯まぁ、あんまりあいつと絡まねぇ方がいいんじゃねえの?」



「そうかもなぁ⋯⋯」



 驚いた。部長であるユウスケからそんな言葉が出るとは思わなかった。

 ユウスケの事であるから、もっと観察するべきだ! とか言いそうであるのに。



「それより鷺ノ宮さんじゃね? あの子、何故か俺に結構話しかけてくんだよなぁー」



 それはお前のことが好きだからに決まってんだろ、と言ってやりたいができない。

 もし、それを言って鷺ノ宮とユウスケが付き合うことになったら? もしそうなったらユウスケと絶交するのは確定である。

 鈍感ユウスケは罪深い男である。




「⋯⋯えと、ユウスケ君。呼んだ?」




「さ、鷺ノ宮ぁ!?」




 隣のグループでお昼ご飯を食べていた鷺ノ宮が自分の名前に反応したのか、話に入ってきたのだ。

 まずい。とんでもなくまずい。

 このままではユウスケといい感じになって、お昼ご飯を食べない? から始まって最終的にはあんなことやこんなことをするに違いない! と被害妄想木原は捏造する。


 しかし、ユウスケが鷺ノ宮のことをどう思っているのかを聞いていない。

 もしかしたらユウスケは鷺ノ宮のことが嫌いかもしれないのだ。

 鈍感ユウスケをこのまま放っておけば、鷺ノ宮が自然にユウスケのことを好きではなくなるかもしれない。



「私の名前が聞こえたんだけど⋯⋯」



「えっと。あの、わ、わり⋯⋯」



「俺! 俺が呼んだ! 鷺ノ宮を呼んだの俺!!」




 自分でも気持ち悪くなるくらい大きな声を出してユウスケが言い終わるまでに自分が呼んでもないのにあたかも自分が呼んだかのように演じてみせた。

 そんなつもりではなかったのに。本当はユウスケと鷺ノ宮を会話させる筈だったのに。


 何故か鷺ノ宮を呼んでしまった木原はフリーズしてしまった。


 クラス中の視線が鷺ノ宮と木原の方へ集まる。




 誰がどう見ようと、陰キャが突然大声出したらキモイ。うん、キモイわ。

 木原はいちごオレの入っていた紙パックを握り潰した。






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