第7話

何も話題のなくなった菓子部一同。

 誰も喋らない、誰も目を合わせない、謎の状況。


 数分前に綾宮と前嶋が帰ってきてからますます雰囲気が悪くなってしまった。

 綾宮は何かオドオドとしているようで、前嶋は窓の外をずって見つめて、他三名は、この状況に耐えきれず死亡中。


「⋯⋯えっと、今後は放課後に部室に集まってもらうんだけど」


 菓子部の部活内容は、まず菓子を持ち寄り、食べて、何かを研究する。以上だ。何かを研究する、については特に触れないでおく。



「分かったわ。しばらく通わさせていただくわ」



 意外だった。

 さっきまで愚痴をこれでもかというくらいまで言っていた綾宮だったのに、すんなりと了承した。これは絶対にさっきの間に何かあったに違いないと木原は確信した。



「とにかく、ここでひとつやっておかないといけない事があるんだけど」



「やっておきたいこと?」



 先程までそっぽを向いていた綾宮や前嶋がその言葉に思わず声を揃えた。


 その内容とは、と言い出すかなりいい所で何故か店員さんがフォークを大量に持って現れた。


「あの、そろそろ帰っていただかないとお待ちしておられるお客様のご迷惑ですので⋯⋯」


 そういえば入店してからきづかなかったけどかれこれ四時間以上は滞在している。

 ブラックコーヒーを五つとポテトを頼んだだけであり、そんなに注文していなかったので店員も流石に声をかけたのだろう。

 一同は、帰る準備を嫌々始めた。


 しかし、前嶋だけは店の外を見ながらたそがれている。その表情は、まるで彼氏と今日別れたばかりの彼女みたいな表情であった。そんなの見たことは無いが。



 そして、五人は勘定をすませ、ファミレスを後にした。

 一ミリも歓迎会らしいことはしてない。寧ろ、今後の地雷をたくさん置いたみたいなことになってしまっている。

 綾宮と前嶋の関係の悪化。これが一番の最悪の事態であった。


 先程まで降っていなかった雨が店を出た時に木原の鼻に落ちた。勢いのない、弱い雨。

 しかし、直ぐに大雨と変わった。それはまるで綾宮と前嶋のことそのものであった。



「⋯⋯ほんとに大丈夫なのかよ。このメンバー」


 木原も、鷺ノ宮もユウスケも知らない。カッターナイフでの前嶋と綾宮の一件を。

 それは知られてはいけない前嶋の裏の顔。


 そんな新入部員達とともに菓子部はここに、ハジマリを迎えるのだ。












  ────木原が好き。

 その衝撃の事実を前嶋が言ったのは何故か。

 凶器で他人を脅し、挙句の果てには前嶋の豹変があった。



 これは果たして、嘘か真か。

 答えはこれからの学園生活で見つけなければならない。


 そんな謎に包まれた女子たち。

 まだまだこんなものでは無い。









 木原は傘をささずに、水たまりを無視しながら歩きはじめた。


 さっきとは違う表情をしている綾宮。なんの話しか知らんけど盛り上がっているユウスケと鷺ノ宮。そしてポケットに手を入れて壁にもたれかかって、マスクをした。




「こんな暗い始まり方ですが、今後もどうぞよろしくお願いします」



 鷺ノ宮と木原だけ声で反応したが、綾宮と前嶋は聞こえているようだったが、返事をしない。

 いきなり新入部員入ってからケンカする部活なんてあるか?



 何だかんだで、はじまる予感。

 だが、木原は嫌な予感がしていた。本当にこの二人を入部させて良かったのか?

 意味の無い思考を働かせ、じゃがいもほどの脳で考えに考えた。



「俺、この部活やめようかな⋯⋯」





 何かが起こる予感が、する。

 彼のこの発言から全ての物語はスタートする。いや、もう既にスタートしているのである。




 脅迫されてユウスケに告白するように強制されている綾宮。

 カッターナイフで人を脅すという裏の一面をみせた前嶋。

 まだまだ謎の鷺ノ宮。



 彼女たちは嗤い続けるのである。ここから。

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