第2話
「ユウスケ先輩、本気で言ってるんですか?」
未来はビスケットを口の中に入れる寸前で唖然としていた。
あの伝説の美少女の綾宮 真美をこんな意味不明な部活に入部させることなど到底不可能なことである。
「なぜそうなる」
木原はリクライニングチェアーでふんぞり返る。その椅子はギシギシと鈍い音を立て、古さを感じさせている。
「だって考えてみろよ! この部活に学年一の美少女が来てみろ? 部活がやっと華やかに⋯⋯」
「やっとって何ですか? やっとって何ですか?」
未来はビスケットの入っていた箱を右手で握りつぶし、ユウスケを思いっきり睨む。
この部活唯一の女子である未来にとって、この上ない侮辱である。
「⋯⋯まぁとにかく、明日の昼休みに勧誘会があるからそこでもし来たら勧誘してみれば?」
「木原せんぱぃぃぃぃ⋯⋯。私は反対何ですがぁぁ」
未来が木原の左袖を掴みながら少し涙ぐんだ状態で全力で反対する。
「よし、決まりだな! 明日ぜってー綾宮さんをこの部活にいれるぞ!」
「おー」
「せ、ぜんばぃぃぃぃ⋯⋯だからぁぁ⋯⋯」
やる気のない木原と全力反対の未来。
ユウスケが食べ終わったチョコ棒の袋がゴミ箱に捨てられると同時に本日の部活が終了した。
翌日、菓子部の教室には学年一美少女の綾宮 真美がいた。なぜか、いた。木原は持っていた手提げバックを地面に落としてしまった。
────事の始まりはユウスケからである。
まだ部員が誰一人として来てない中、一人で黙々と部室前に菓子部勧誘のポスターを貼り、お菓子を配って勧誘していた。
「⋯⋯それ、ひとつ貰える?」
一人だけ、違う。匂いも声の透き通った感じも、全てが素人ではなかった。聞き覚えのある声の高さ、そしてスタイル抜群の容姿。間違いなかった。
「やっと来ましたね、綾宮さん」
ユウスケは待ってましたと言わんばかりに箱から大量のお菓子をばらまいた。その量は多すぎて長机からいくつかこぼれおちる。
「一つと言わないで、いくらでも持っていってくださいや。そうするとお菓子たちも喜ぶんで」
まさかの綾宮の登場に廊下を通っていた男子や女子の足が止まる。ユウスケと綾宮の周りは生徒でいっぱいになった。
「あら、随分と巧みに私を勧誘しようとするのね」
綾宮は伸ばしていた手を少しだけ引いて、一歩だけ下がった。ユウスケを警戒するように。
「⋯⋯綾宮さん。僕は貴方が類を見ないお菓子好きだってことを知ってるんですよ?」
突如ユウスケは俯き、そう切り出した。そのユウスケの発言に周りの生徒たちはざわめき出す。
「あら、あなたに私の何がわかるの?」
そう綾宮が言ったあと、一間を空けてユウスケは大きな溜め息をした。そして目の前のグミの袋を空けて、一つだけ取りだし、そのグミを指で弾き、綾宮の口の中に狙って入れた。
「僕は貴方が毎日弁当の後にこのグミを食べていることを知ってるんです。このグミ結構マイナーなお菓子なので基本的にはお菓子好きの人しか知らない筈なので」
「⋯⋯なるほどね」
綾宮の顔が変わった。綾宮は口に入れられたグミを勢いよく噛み、飲み込んだ。
「真美さん、さすがにこの様な部活、真美さんが穢れるのでやめておいたほうが」
綾宮の連れだろうか。二人のうち一人の女が綾宮の横でそう口にした。
しかし、突然に綾宮は無言でその女を押し退け、ユウスケに近づいた。
「ここの部活、前嶋 未来が居るわよね?」
「⋯⋯え? あ、はい。居ますけど、それがどうかしました?」
「⋯⋯なるほどね。分かったわ」
綾宮は顔色を少し変えて、自分で頷く仕草をした。
ざわつきがおさまり、皆無言で二人の会話を見届けている。
「いいわ、入部させていただくわ」
「まじっすか!?」
ユウスケが驚くよりも先にまわりの生徒たちが悲鳴をあげた。
まさか学年一の美少女がこんな気味の悪い菓子部などに入部するなんて誰しもが思っていなかっだろう。
ユウスケは感動のあまり腰が抜けて一人で大号泣した。
綾宮の連れが綾宮の肩を叩き、耳元で囁やいた。
「⋯⋯いいんですか? ただでさえ気味の悪い部活なのにさらに 前嶋 未来がいるんですよ? 正気ですか?」
「⋯⋯ふん。いい機会だわ。あいつと関われるチャンスができた」
綾宮は口の周りについたグミの粉を舌で舐め取り、自分の髪をはたいた。
────その一部始終を見ていたとある女がいた。
何故だか分からないが、もうひとつ部室にあった椅子が使われている。誰が使っているかなんて言わなくてもわかるだろう。
「────ていうことで綾宮さんが入部することになったんだけどぉ」
「⋯⋯ユウスケ、綾宮さんがここにいる理由は分かったが、鷺ノ宮がなぜこの部室にいるのかだけ教えてくれ」
鷺ノ宮は無表情で姿勢正しく椅子に座っている。
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