時に彼女は嘘と嗤う
ネコバコ
序章~彼女らは嗤い続ける~
第1話
女はよく嘘をつく。
俺の中学時代からの持論である。勿論例外の女だって山ほど居るはずだが、正直なところ俺には女に嘘をつかれた記憶しかない。当然ながらも本日もクラスの女子は嘘で溢れかえっている。
「あ、木原くん? 申し訳ないんだけど集めた課題全部先生のところ持って行っておいてくれない?」
クラスでも一位、二位を争う陽キャ女子の一人が一度も話した事もないのに突然話しかけてくる。申し訳ない、なんて一ミリ足りとも思っていないだろう。寧ろ陰キャ気持ち悪い、陰キャは陰キャらしく従ってればいいんだよと思ってるんだろう。
そう思いながらも木原はしぶしぶ陽キャ女子から山積みの課題を無言で受け取る。
マイナス気温によって冷却された廊下がいつも以上に身体に染み渡る。
ここから職員室まではかなり遠い。一度下に降りてから別の棟に移動するのにもう一度地獄の寒さを味合わなければならない。
あと少しで職員室、という所で前方から女三人組が並列で近づいてくる。
「何してんの?」
聞き覚えのある独特の喋り方。いつも俺に会った時にはその言葉しか言ってこない女。
「⋯⋯ねぇ、すず? なんでこんな奴に話しかけてんの?」
俺が返事をする前に連れの女友達が微妙に聞こえる声でボソッと呟いた。
「え? いや。⋯⋯あれ、ごめーん人違いだったわ」
さらに聞き覚えのある高笑いをしながら俺の横を女たちは過ぎ去った。
俺が何をした? というか喋ってもないんだが。
確実に幼馴染で昔毎日のように遊んでいた俺の唯一の小学生時代の女友達だ。中学が違うこともあり、連絡手段もなく、同じ高校になるまで一切関わっていなかったが、まさか高校二年生になってこんな形で再会するなんて。ちなみに高校一年生の時は全くもって会っていない。
彼女の名前は鷺ノ宮 涼。黒髪ロングヘアで身長は少し低め。赤いピン留めが特徴。幼少期には将来結婚することを誓ったこともある仲である。子供の頃のことであるが。
正直に言うと、俺は未だに鷺ノ宮のことが好きだ。
顔もそこそこ良くて、スタイルも良く、とても優しい明るい性格だ。そんな良いとこだらけの鷺ノ宮 涼のことを好きだと気付いたのは小学生の卒業式の時。幼馴染という壁に阻まれてこの気持ちを伝えることが出来ずに卒業した。
「それがなんだ。結婚だ? 馬鹿馬鹿しい」
一人で思い上がってずっと片想いしていた自分が恥ずかしくなった。
木原は職員室にそそくさと入り、放り投げるように課題を置き、暖房で少し温まってから教室に帰った。
教室に帰ると突然、窓側の最前列の席から飛び出すようにこちらへ向かってくるのは同じ部活の友達のユウスケこと篠田 遊助である。
頭のおかしい、変人である。それ以外は言うことがない程何も特徴が無い。
「なぁなぁ! ビックニュースがあんだよ!!」
ユウスケは木原の胸ぐらを掴み、思いっきり揺らしながら荒い呼吸で喚いたわめいた。
「分かった分かった!! どうした? 何があった?」
そう言うとユウスケは木原の耳元にそっと自分の口を近づけた。
「⋯⋯真美さん、別れたらしいよ」
「いや、その情報俺に言う? 俺関係なくね?」
その女は二個隣のクラスの生徒でこの学年トップの美少女に君臨する男子憧れの存在である。名前は綾宮 真美。木原からすればコンビニ弁当と一流シェフの料理ぐらいの差の存在。一生縁のない女である。
「⋯⋯ていうか綾宮さんって彼氏いたんだ。知らんかったわ」
「はぁ? 木原ってまじで情報疎いうといよなぁ。この学年で知らんのお前ぐらいだろ」
そんなことより木原は耳元で囁かれた時のユウスケの唾をティッシュで必死に拭いていた。
「しかもよぉ、真美さんって結構なあざとい女って噂されてるんだぜ? やっぱあの可愛さには裏あるよなぁ⋯⋯」
やはりそうだ。女には裏が存在する。あざとい、なんて結局のところ嘘つきと同じことだ。例えるなら人気動画配信者が実はめっちゃ性格悪かったみたいなものだ。
「とりあえず部活行こうぜ。あいつが待ってるわ」
「あ、ちょ、待てよ!!」
木原は鞄を肩にかけて颯爽と廊下を駆け抜けた。その後ろを鞄のチャックを閉めながらユウスケが追いかける。
古く錆びた鉄の持ち手を持つとじんわりと冷たい。木原は多目的教室のドアを思いっ切り引いた。そこには自分の髪の毛をクルクルと指で回し、暇そうに座っている少女がいた。
彼女の名は前嶋 未来。一個下の学年で先月入部したばかりの女子だ。金髪ショートヘアで身長は低い。
「もう、先輩方遅いですぞぉ! 三十分も一人で待ってたんですよ!」
「いやぁごめんごめん!! 実は木原のやつが道草食っててさぁ。まじでクズだわ木原」
「ユウスケあとで殺す」
木原はユウスケの嘘に一瞬で殺害予告をした。
未来は苦笑いで二人の様子を伺っている。
「そうだ! ところで先輩方!今日ってあれの日なんですよね?」
未来は丸椅子から勢いよく立ち上がり、両手を長机に付けながら言った。
「そうだ。あれだよ。⋯⋯部員合計三名のみ。このままでは潰れてしまうこの部活。そこで!」
ユウスケはくっくっくと不敵な笑みを浮かべた。
「毎年恒例! 菓子部部員集めようの会をやる!!」
菓子部とは、様々なお菓子を自腹で購入し、それをみんなで食し、日々研究ノートにまとめていくという意味のわからない部活動なのだ。なぜ正式に部活として認められたかは分からない。
「でもどうやって部員呼ぶんですか? 金ですか?」
「⋯⋯そんな生々しいもんちゃうわ。やはり菓子部だからお菓子で釣らんとな」
そう言ってユウスケは棚から大量のスナック菓子やグミなどを取り出した。
「まぁ去年は部員一人も釣れなかったんだがな」
「⋯⋯ダメじゃないですか」
「だが、今回は去年の分まで取り返せるビッグな企画をご用意した」
ユウスケそう言ってチョコ棒を開けてかじりながら言った。
「綾宮さん呼んじゃいます」
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