4章 蟹座

 眩しい……朝か。

 ぼんやりした意識が定まるのを待ちながら、僕は静かに動きだす。

 今日は休みの日だ。今の穏やかな心境のような、明るい白色の雲が空を染める。それがとても清々しく、この街も普段より美しく見える。

 僕の関心は今日の陽気から、喫茶店にあるテラスの一席に向けられる。

 そこに座る美しい女性を見た僕は、引き寄せられるようにその場へ向かう。

「すみません。相席してもいいですか?」

 彼女は不思議そうな顔をしたが、受け入れてくれた。

 ラッキー! 今日は最高の一日になるでしょう! そう僕の中の占い師が、今日の運勢を報告する。

「今日もいい陽気ですね。明るく清々しい。雲がとても明るい白色で綺麗ですよね」

 彼女にそう言うが、この言葉にも凄く不思議そうな顔をしている。少し気まずい空気が漂う。

 だが、その重い空気は、彼女の質問で少し変わる。

「あの、映画とはどういうものですか?」

 唐突な質問に驚いた。まるで、先ほどまで話していたかのような感じだ。それに場の空気も驚き、空気模様が不思議なものに変わる。

 しかし、これはチャンスだ。僕はチャンスに燃える打者の様に打席へ向かう。この話題なら打てる! そう分かっていて、打席に立たない人がいるだろうか? 僕は知らない。

「映画ですか? それは凄く楽しいものですよ! もしかして、興味ありますか?」

 僕の問いかけに彼女は頷く。

 ここから僕は、自分が好きな映画について様々なこと語る。

 普通だったら、こんな一方的な話をしたら嫌われてしまいそうだが、僕の前に座る美女はその話に目を輝かせいる。

 常に「それはどういうものですか?」と、どんどん深いところへ進んでいく。その姿は、探求者と呼ぶのが相応しい。


 彼女の関心事は、映画やドラマの話だけじゃない。これまで僕が過ごしてきた日々にも関心があるようだ。

 僕が友達とする会話、学校の話、話題のニュースなど。そういう日常のことだ。

 だけど、その全てを1日で語るのは困難だ。

 

 あたりも暗くなり、今日の限りが近づいている。

 僕は「今日はもう遅いから、また次の機会にね」と切り出し、席を立つ。

 その時、彼女は驚いた様子だったが、僕は時間の方が気になり振り返らず、一歩踏み出した。

 もし、何かあれば呼び止めるだろう。そう思った。

 彼女と別れた後、僕は眠くなり、目の前の世界が徐々に見えなくなっていく。

 

 僕はその暗闇の世界へ消えて行く。

 次に出会う光の世界ために。

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