2章 牡牛座
眩しい……もう朝が来てしまったか……。
意識が曖昧で、見える世界もぼんやりしているが、徐々に世界が見えてくる。
明るい真っ白な雲が空を染め、清々しい昼時だ。随分と永く眠っていたようだ。
僕は意識が曖昧なまま、森にある道を歩く。しばらく進むと、少し拓けた場所に出た。そこには古い洋館がある。
まるで、ホラー映画に出てくるような雰囲気の館だが、この陽気のお蔭だろうか、全く怖い感じはしない。
館を前にした頃、僕の意識は定まり、強い好奇心に支配される。『勝手に入ってはいけない』と分かってはいながらも、その好奇心に負け、恐る恐る館に入った。
内装は映画で見るような感じだ。そう、吸血鬼の紳士が登場する映画だ。派手な飾りは無く、質素で実用的なものが伝統を刻んでいる。
館内はとても広い。初めて訪れた人は、迷子になることだろう。僕も気をつけよう。なにせ、勝手に入ってしまったのだから。
外見は古いが、館内はとても綺麗だ。廃墟という感じではない。まだ誰か住んでいるのだろう。
そんなことを考えていると、小さな少女が視界に現れた。
僕は、館に勝手に入ってしまった事を謝り、外へ出ようと考えた。少女を怖がらせないためにも。だが、僕が謝罪する前に、少女は僕の手を取り館を案内し始めた。
この子の両親に見つかる前に、謝って帰った方が賢明だが、楽しそうに館を紹介する少女を見ていると、なかなかそれを切り出せない。
広い館の紹介が一通り終わる。最後に少女は『秘密の場所』を教える、といい。そこに僕を連れて行く。
連れて来られたのは屋根裏部屋だった。その空間は、外の明るさと室内の暗さが曖昧に調和する、穏やかな中間色の世界。
窓際にいる少女が手招きする。僕が向かうと少女は、この部屋の窓から見える世界の景色は美しく、それは『自分だけの秘密』と教えてくれた。
たしかに、窓から見える世界の景色は、美しかった。
それを細かく表現しようと思うが、言葉が出てこない。気づけば、僕の語彙の鞄から様々な言葉が飛び出し、変わりに一つ、大きな『美しい』という言葉が鞄に入っていた。
そうとしか表現できない。この景色に相応しい言葉があるとしたら……やはり『美しい』という言葉だけだろう。
それをどれくらい見ただろう? 永遠なのか、一瞬なのか……。きっとその時間は、『永遠と同時に一瞬』だったに違いない。
しばらくその光景に見とれていると、車が館に向かってくるのが見える。館の前で止まった車から何人か降り、彼らは館へと、歩き出す。
少女の両親だと思ったが、少女の様子から違うと分かる。よく見ると、少女の姿が霧のように少しずつ朧な姿に変わっていく。
その姿を見た瞬間、僕は少女が幽霊だと気づく。無邪気な幽霊だから、知らない僕を怖がらなかったのだと。
外の彼らに見つかりたくない僕は、少女に「君のことは絶対に忘れない。何があっても忘れないから」と誓う。
そして、消えて行く彼女に別れを告げ、館から抜け出そうと決意した時、突然目の前が見えなくなった。
僕はその暗闇の世界へ消えて行く。
次に出会う光の世界のために。
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