第5話 かくれんぼ鬼ごっこ③

「えっと、じゃあもう一回アッチ側に行く…んだよね?」

「行かなきゃしゃーねんじゃねーの?」

「で、でもさ。さっき私たちを戻してくれたみたいに呼び戻せないの?」

「あれは、お前らがすぐ目の前を通ったから。あいつらがどこにいるかなんてしらねーもん。ここじゃ分かんねーな。」

「…」

「あの…一緒に行ってくれない?」

思い切って、そうお願いした。そうしたら、実にあっさりと

「いーよ。どのみちそれが俺の本題だし」

と訳の分からないことを言って、請け負ってくれた。

「じゃ、じゃあ…よろしくお願いします」

カンナギ君は何も言わず、スタスタと先を歩いて行ってしまった。


ヴン…


なんだか、急に空気が変わった気がした。

すごく重苦しい感じ。

「なんかさ、なんか…雰囲気変わった?」

「うん。さっきと全然違うね」

「そりゃ、アッチ側に来たからな」

「え?もう?!」

「アッチとコッチ…さっきまでいた所は離れた場所にあるわけじゃない。薄い壁みたいなのを隔てて同時に存在してんだよ」

なんかすごく難しい…。分かったような、分からないような。

「さぁて。お友達を探すか」

「うん…」

改めて考えてみると、旧校舎はそこそこ広い。4階建てで各階にクラスが7つもある。昔は子供が多かったんだって。

「どうやって探そう…」

「あ!そういえば。吉川さん足首大丈夫?元の世界で待ってた方が良かったんじゃ…」

「あ…いっぱいいっぱいで忘れてた。思い出したら痛くなってきた…」

「だ、大丈夫?」

「なにしてんだよ。そいつ、足痛めてんの?」

はぁぁぁぁ~…と思いっきりため息を吐いて

「今すぐ戻る、戻すことはできない。ある程度はこちら側の理に沿って行動しなきゃなんねーからな。しゃーねぇなぁ。じゃ、応急処置しとく。ただし、ここから元の世界に戻った時にめちゃくちゃ痛くなるけどな。いいか?」

「うん」

吉川さんが真剣な顔で頷いた。

カンナギ君が吉川さんの足首に手をかざしてなにごとかぶつぶつ呟いている。

「あ…すっごく気持ちいい。ひんやりしてきた」

「っしょっと。とりあえずこの世界でいつもとおりに動き回るには支障ないようにしたぜ。帰ったらちゃんと処置しろよ」

「あ、ありがとう」


「どうやって探すの?」

「そーだなぁ。今んところ、物音しないもんな。隠れたか、もしくはころ…」

「やめてよ!!!」

吉川さんが悲鳴を上げた。

「現状把握だよ」

事もなげにカンナギ君がそう言った。カンナギ君て、無神経なのかオリハルコン並みの心臓持ってるかどっちかだな。うん。

「やみくもに探すのは効率わりぃし、危険度が上がるからな」

そう言って、静かに目を閉じて黙った。

「ね、ねぇ…なに?なんか言ってよ…」

吉川さんが不安そうな声を出した。僕も同じことを思った。

「うるせぇ。あいつら探してんだから、黙ってろ」

そう言われると、ちょっとムカッとしながらも黙るしかない。

横を見ると、吉川さんも同じことを思ったのか口を尖らせている。


「―見つけた」


そう言って、カンナギ君が目を開けた。

「面倒なことに、バラバラになってんな。1人は2階の理科室、1人は3階の音楽室、もう1人は1階の職員室だな」

「え?1階に行けたの?」

「大方、かくれんぼ鬼ごっこにルールが変更になったんだろう」

「かくれんぼ鬼ごっこ…」

「んじゃ、1人1人迎えに行くか。お前らも俺の傍から離れんなよ。バラバラになるのは禁止だ。下手したら死ぬからな?」

それは言われなくとも。いまここで頼りになるのはカンナギ君だけだから。

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