『大海獣ハシラー』 中編その4


 35年前のおはなしである。


 やまさんの弟は、兄貴の家を訪れていた。


 そこに、だれも見たことがない、巨大海洋生物が、関門海峡のど真ん中に現れたのである。


 『行こう。すぐ、見に行こう。』


 兄が、そう言うのは、当然である。


 弟は、もしかしたら、いま、現場の一番近くにいる、内務省の職員かもしれない。


 ただし、休暇の身である。


 あまり、仕事熱心ではない。


 したっぱの、やくたたずである。


 『おまえ、まだ、本省には、電話するな。』


 兄は、機先を制した。


 『はあ?あんた、なにか、隠してるな?』


 『とにかく、行くぞ! まず、見てからだ。』


 それで、兄貴のガタガタボロ四駆車に乗って、現場に向かった。


 時々、あがってしまうので、いつも、やかんに水を汲んで乗せているような、高級自動車である。


 しかし、メインストリートは、かなり手前で、規制されていた。


 ま、そこは、地元の強み、である。


 兄は、ガタビシャ道を、斜めになったり、落っこちそうになりながら走り、やがて、海岸にでた。


 巨大な生き物が見える。


 ライトアップされたような状況である。


 周辺の市民は、たぶん、避難させられたであろう。


 『いた。あれだ。なんだろう。』


 やまさん弟が、ちょっと叫ぶ。 


 『まさしく、怪獣でしなあ。でも、へんなやつだ。なんだい、あの。ながい、お箸を背負ってるのは。怪獣、『ハシラー』だなあ。』


 『その、なまえ、いただき。あれは、あいつの武器だろう。最初の想定とは、ちょっと、ちがうがな。しかし、基本は踏襲したか。あ、光った。こりゃ、まずい。あれは、気が立ってきた警告だ。それか、腹ペコになった、なんか、食わせろ、という合図。どっちかだ。』


 怪獣の背中の、その、巨大な2本のお箸に似たものが、七色に光ったのだ。


 兄は、追加して言った。


 『あいつ、やはり、あれが育ったやつだな。』


 『なんだよ。あれ、あれって? なんか、あんた、やぱり、よく知ってる感じだな。あんたが、開発したやつかい? 怪しい研究してるらしくは、思っていたが。』


 『防衛隊が、密かに研究してたんだ。文字通りの、生物兵器だ。ただ、防衛隊でも、政府でも、知ってるのは、ごく、数人だ。』


 『だから、あんたが、作ったのか?』


 『初期には、関わった。基本的なスペックは、確かに作ったが、内部対立があってね。辞めた。』


 『はあ。それで、左遷されたか。』


 『たぶんな。だから、その後は、まあ、知らない。かなり、前のはなしだ。しかし。結局開発は、途中で止めたとも、聞いたがな。密かに誰かが継続させていたか。ならば、あいつかな?』


 『やっぱ、おおいにからんでるんじゃないか。おあ、戦闘機が来た。やる気か。あんな場所で。』


 『まずいな。おいらの知識が合ってるとすれば、あいつは、攻撃されると、凶暴化する。究極の防衛兵器なんだ。』


 『なんだそりゃあ。あ、銃撃始めた。おぎょわ〰️〰️❗ミサイル発射した。防衛艦が複数いるぞ。そっちからも、発砲してる。戦争だ。』


 『まずいな。あんなんじゃ、たぶん、効かないさ。そんな、やわじゃない。うーん。買い出しに行くぞ。』


 『は?買い出し?』


 『うん。あいつは、たぶん、かなりの、ぐるめだ。当初の想定がいきていればな。人間も食べるぜ。しかし、具体的な嗜好がわからん。とにかく、うまそうなもの。かきあつめよう。臭いも必要だな。強力な。』


 『さっぱり、わからないや。でも、おれ、金ない。』


 『おいらも、ないさ。市役所の友人に頼もう。幹部候補だ。未来は、たぶん、市長さんだ。世襲になるがな。』


 『おわ、暴れだした❗あ、防衛艦がまっぷたつだ。すごい。』


 『きみ、内務省に、話のできるやつがいるかい?』


 『そりゃ、一番下だから、課長からだなあ。またく、信頼はないこともないが、そんな話ししたら、ぶっとびそう。あの課長も、外様系列だからなあ。なおさら、あぶないことには、首を挟まない。それよか、あんたが、防衛隊に、話した方がはやかろう? ん?』


 『そうだな。しかたがない。このさい、とりあえず、『長老郭』に行こう。あそこなら、公衆電話もあるし。』


 『ふくさしの、名門だぜ。』


 『なんでもある。中華も、フレンチも。まあ、おれは、しがない塾教師だが、一応、漁師でもあるから。付き合いはあるんだ。それと。『やきとりぱんだ』を呼ぼう。』


 『ぱんだ?』


 『うん、はやりの、流しのやきとり屋だが、友達だから。強力な臭いも出す。近くにいればいいがなあ。』


 『なんのこっちゃ? あら〰️〰️。また、防衛艦やられた。あ、お箸から、ビームが! 』


 戦闘機が、燃えながら落ちて行く。


 まさしく、怪獣映画そのものである。


 すると、怪(海)獣は、やおら、背中に腕を伸ばしたのである。


 忍者のごとく、海岸に向かって、あたかも、海上を、すすす、と、走るかのように進んでゆく。


 見た目とはまるでちがい、うごきが、すばやい。


 『ますます、ハシラーだな。こっちくるぜ。すこし、はやく逃げたほうが良さそう。』


 やまさん弟が、つぶやいた。


 『ああ。さ、ゆくぜ、まだ、店があるうちに。』


 『もう、逃げてるよ。』


 『いや、あの大将なら、店と心中だ。』



 ふたりは、車に飛び乗った。


              🌉 



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

             つづく


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