『大海獣ハシラー』 中編その2

 「おとうちゃん、しんおじさんから。・・・・ほら、はやく!」


 「わかっとる。慌てるな。」


 伝説の男は、ゆったりと、ちゃぶ台の前から立ち上がった。


 『あいよ。もう、縁を切ったのかと思ったよね。』


 『べつに、切ってないよ。合わす顔もないから。それより、あいつ、あのときのバカ話を本気で理解していたんじゃないか?』


 『ふ~~ん。覚えとったかねぇ。まあ、わしもそう思ったがね。言い出したのは、おまえさんじゃけんね。』

 

 『わかってます。だから、責任取りに行く。しかし、攻撃されたらこまる。ぼくが頼んだんでは、相手にされない。なんとか、まずは、そこの話の分かる人がいないかな。兄さんから。』


 『ぶあ~~~~~か!! 内務省のお偉いさんが言う事じゃないだろね。』


 『それ、いやがらせ? 企業なら、くびになててもおかしくない。うちの課長の後押しがあったから、引っかかってただけだ。あすで、おしまいなんだけど、それも、休みにした。 ・・・・・・おいおい、こりゃあ、何か、見たこともない『大砲』みたいなのがうごいてるなあ。なんだろう。』


 『おれがわかるわけがなかろう。しかし、防衛隊は、やるつもりじゃね。おまえ本気で止める気があるんか?』


 『ある。やらなければ。』


 『相手は、怪物よね。お前が思ってるような、意味のある行動とは、違う可能性も高い。あいつの、あれで、喰われるよね。もしかして。あんときみたいにねぇ。』


 『しかたがない。あんたの力がどのくらい、いま、あるか知らないが、嫌われ者なのは知ってるけど、むかしは、大物だったんだ。防衛隊の攻撃を止めて、それから、『ふくさし』を、大量に差し入れする態勢を作ってほしい。ぼくの全財産、といっても退職金だよりだけど、つぎ込むから。』


 『ふ~~~ん。そこまで、おもっちょるんか。よかろう、当たっては見る。しかし、当てにはするな。最近の若い連中は、人より、コン・ピューターやらと言うものが大事だ。』


 『よく言うよ、大方あんたが作ったプログラムだろうに。とにかく、いま、そっちに向かって飛ばしてるんだ。たのむ。あ、『オモラシンZ』買ったから。』


 『おーー! すばらしい。わしは、ねっと通販とかやらんからね。じゃ、まっとる。お前じゃなくて、『オモラシン』をぞね。』



  ************   ************


 

 「課長。この、35年前の、謎のふたり組。面が割れましたぜ。」


 「おう、たっちゃん。やったね。で、だれ?」


 「ひとりは、下関の漁師の大将。変人で、嫌われ者。『やまさん』とよばれてたが、最近は、あまり活躍してない。ある弟子にまかせているらしいす。これも、正体不明の人物ですがね。しかし、大将の、うでは、すごいらしいです。『黄金の腕』とかもいわれるらしいす。なぜか、信じがたい、ものすごい獲物を釣り上げる。たまに仕事すると、けた外れの大物ばかりあげて、高額取引する。『ブラック・シャック』みたいな人です。まあ、もぐりじゃないけど。しかも、本来は、どうやら、学者様らしいとか。でも、情報が一切ない。おかしいでしょう。学会から消されたようです。それと、もうひとりは、その弟で、こっちも『やまさん』と呼ばれるが、内務省の『ダメ・ノンキャリ』らしいですね。メンタルの病気になって、毎日『ゴミ当番』らしいです。これ、手に入った写真です。昔のですが。」


 「ふん・・・動き、追えるか?こっちでも、調べてみるから。」


 「やってみます。」


 「よっしゃ。表側は、やっちゃんがあたる、たっちゃんは、あくまで裏を探れ。いいか、朝刊で、絶対他社をぶっとばす。」


 「了解。」


 

   ************   ************


 

 「おまたせ、してくれますなあ。」


 市長は、随行員につぶやいた。


 テント内には、最新型大型空間テレビがあって、放送局の中継放送と、独自の生映像とを流していた。


 あいかわらず、『ハシラー』は、海の上をゆったりと漂い、ときどき、あの、奇妙な叫びを繰り返していた。


 そこに、市長の携帯が鳴ったのである。


 『はい。・・・・・おう。なんだ、ひさしぶりじゃなあ。ニュース見てるか?』


 市長は、携帯を左手から右手に持ち替えた。


 彼は、文字を書く時は左利きである。


 『ふん。・・・・・ああ、その話か。・・・・・・・・あっりゃま、そうかい。怪談かと思ってたけどね。・・・・・・・・・ふうん。いや、それは、おれも、司令官に攻撃しないように、進言しようと、ここに来てる。え???・・・・山の上ぞね。・・・うん。・・・・・おぎゃあ!! そりゃあ、むりぞね。・・・・まあ、こんな夜じゃけん、お客はおるまいに。・・・・・・・わかった。・・・・・・やってはみるけんど、あんた自分で・・・・・・・・うん。そりゃあ、そうじゃのう。よっしゃ。弟さんは、くるんかい?・・・お~~~。そうか。ぼくも、『オモラシン』は、好き。じゃな、あとで。報告する。あんたも、すぐ、おいで。』


 市長は、それから、誰かに電話した。


 『あ~~~。おれだよ。あんちゃん、頼みがある。避難したか? はは、まあ、そうよね。たのむけん、できるかぎり、みんなで、大量の『ふくさし』作って、第2桟橋に運び込んでくれない? ・・・・・・あ~~~~もう、いいというまで、5000人級の、超大型クルーズ船まるごと一隻分くらいのつもりで。え? そりゃあ、あんちゃん、喰うのは『ハシラーさま』ぞね。大方はな。あんたも、付き合えよ。え、喰われる?かって? まあ、むかし、喰われた人は、多いぞね。あんたも、喰われたくなかったら、協力よろしく。 ああ、それと、ついでに、でっかい納涼船と、桟橋二枚分くらいも頼む。テーブルに、すっから。引き船も。え? 金? そりゃあ、保証する。』



 そこに、司令官が、ようやく、お見えになったのである。




  ************   ************


                       *****つづく






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