第77話 言葉は通じなくてもいい! 感謝していることが外国人に伝わればいい

 かれこれ15年以上前の話になるのだが、日本人男性の私はメールマガジンを発行していた時期があった。当時、メルマガ天国、melma!、まぐまぐ、POSBEE(ポスビー)、ゴザンス、BIGLOBEめるまがサービスなどのたくさんのメールマガジン配信スタンドがあった。


 現在も運営しているメールマガジンの会社(配信スタンド)もあれば、すでになくなっているところもある。15年以上前の私は、文章を書いたこともないド素人だったのだけれど、メルマガを発行しようと思った。そして、いきなりメルマガ発行者となり、メールマガジンを毎日発行してしまったのである。


 文章の書き方を知らない人間が、いきなりメルマガを発行するとどうなるか。それは私のメルマガを読んだ読者から「句点、句読点の打ち方がおかしい。違いますよ」と指摘のメールがくるのである。


 現在のメルマガのシステムは知らないが、私が利用していた頃のメルマガは、メルマガに返信すれば、そのまま発行者である私にメールが届くシステムだったと記憶している。


 句点や句読点に関して指摘され、文章ど素人の私は、それでもメルマガ発行を辞めることなく書き続けた。しばらくして読者の方からメルマガの感想が届くようになった。それは何とも言えない不思議な瞬間であった。


 私が何故、このようなことを語っているのかと言うと、ベトナムのホーチミンに旅立つ日が近づくにつれて、走馬燈のように過去の自分自身に起きた出来事を思いだしてしまったからである。


 おそらく右も左も分からない国であるベトナムへ行くことを、無意識のうちに不安がっている自分がいるのかもしれない。


 これからの未来への期待もあるが、正直、不安な気持ちもある。自分はベトナムでやっていけるのだろうか。今回、ベトナムには3泊4日の旅行ツアーで行くわけではない。長期間、ベトナムで暮らすことになるのだ。


 しかもひとりで飛行機に乗ってベトナムへ行く。英語もベトナム語もできない。何か不測の事態が起きた時、どうなるのだろう。考え始めたらキリがないのだけれど、不安な要素があるからこそ考えてしまう。


 ホーチミンへ行くにあたり、私の両親にはLINEの使い方を教えた。先日、父親からLINE経由で動画が送られてきたので、LINEの使い方は理解したようである。私がホーチミンで生活している間、何かあったらLINE経由で両親と連絡をする予定である。


 かなり昔の話になるのだが、私はロシアへ行ったことがあった。7泊9日という短い間、ロシアで過ごした。私はホテルでトイレに行きたくなったのだが、トイレがどこにあるのか分からない。


 片言のロシア語で「トイレ、トイレ、トイレ」と連呼しているとロシア人ホテルマンが近づいてきて、私の腕をつかんだ。そして、私の腕を引いてトイレの場所まで連れて行ってくれたのである。私は片言のロシア語で「ありがとう、ありがとう」と何度もロシア人のホテルマンに感謝した。


 私のロシア語の発音が合っているのか間違っているのかは分からない。言葉は通じなくても、私という日本人が感謝の意を示しているとロシア人ホテルマンに伝わればいい。


 あれから何十年も月日が流れ、私はベトナムへ行く。海外へ行くのはロシアが1回目、ベトナムが2回目となる。鎖国状態ではないのだけれど、ずっと日本という国で暮らしてきた。日本人だということもあるけれど、日本に住んでいる限り、言葉の壁にぶつかったことはない。快適に暮らしてきた。


 これから暮らすところはベトナムである。私が話すベトナム語の発音は間違っているかもしれないけれど、「旅の指さし会話帳11ベトナム」を持ち歩き、ベトナム語を連発してこようと思っている。


 文章もそうだけど、ベトナム語だって最初からうまく話せる人はいないのだから。走馬灯のようにあの頃の記憶がよみがえった。


 そう言えば、ベトナム人女性のトゥイが「あなたの恋人はベトナム人なのだから、ベトナム語を話せるように勉強する必要があるのよ」なんて、ケラケラと笑っていたっけ。

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