第2話 探し物はこれですか?

「ここだな。」

クロゥとサラは小さな洞窟の前に立つ。

「さっきブランさん何もわからないーとか言ってたけど、当てはあるの?」

「当てはある。もし外しても、そんなに大きな洞窟じゃないから、虱潰しできる。入るぞ。」

ちょっと嫌そうな顔をするサラを先導して洞窟に入っていく。

「当てってどんなのか教えてくれない?」

「ん?」

「だって何にもわからないんでしょ?」

「いや、大体の見当はつくよ。」

えー、と胡散臭そうな目を向けるサラに、諭すような口調でクロゥは説明し始める。

「まず、この洞窟は1層と2層に分かれてる。1層の方が広い。けど今回は1層は捨てる。」

「なんで?」

「鎧を見ただろ?鎧には新しい欠けた跡があった。更に剣の柄には手形がくっきり。もひとつ付け足すと、ブランは相当急いでた。この洞窟からうちまで走ってきたのに、息が上がってなかったっていうことは、強めの回復剤を使ってたんじゃないかと考えた。それはつまり戦闘があったってことだ。」

よく考えれば当たり前のようだが、かなり細かく観察していることに、サラは驚きを隠せなかった。

「ここらへんで戦闘するってことは、ゴブリン、オーク、アンデッドあたりが候補。アンデッドは動きが緩慢で大振りだから逃げるなんて簡単だし、洞窟の様子を見るに、この洞窟には住み着いていなそうだ。となるとオークかゴブリンなんだけど・・・。」

「あの装備でオークを見て戦おうなんて思う奴はいない。かといって、いくらゴブリンでも大群は捌ききれないと判断できる。ということは2~3体のゴブリンとの戦闘。そこで激しく動いて落としたんだよ。多分な。」

「1層にはゴブリンがいない。奴らは暗がりを好むからな。だから2層に絞られる。特に2層に降りてまっすぐ進んだ小部屋だろうな。あそこならゴブリンからしても動きやすいし、寝床にしてる可能性がある。」

「クロゥって・・・」

「うん?」

「普段どこ見てるの・・・?」

「まぁ全身くまなく・・・なんか勘違いしてないか?」

軽口を叩きながらもサラは内心興奮していた。まるで手品を見ているかのようだった。

「こっから降りてくんだけど、お前がたいまつ持ってた方がいいな。」

「なんでよ?」

「いざって時逃げられる。」

ドクン、大きな鼓動が一つ。下手を打てば人が死ぬ。そういう場所にいるのだと気を引き締めなおした。

「降りてくぞ。」

多少夜目の効くクロゥが先導して歩いていく。降りていくと人一人が通れる程度の道がまっすぐ伸びていた。

事前に教えたハンドサインで、クロゥはぴったりうしろについていくようサラに指示した。VQを前に前に構え、クロゥが進んでいく。すると、クロゥが立ち止まり、VQを背中に回してからナイフを取り出した。そしてそのナイフの尻で壁を叩く。反応はない。

「今は留守中みたいだな。さっさと仕事して逃げよう。」

そういって小走りに進んでいき、小部屋に突き当たった。二つほどのゴブリンの死体で死臭が漂っていた。クロゥはたいまつを貰って、高く掲げた。すると部屋の隅にきらりと光るものがあった。

「あれだ!」クロゥはたいまつを持ったまま隅へ行き、ペンダントを見つけ出した。

「ほんとにあった・・・!」

「意外とやるだろ?」冗談めかしてクロゥが笑う。

「すごい!すごいよ!早く持って帰ってあげなきゃ!」

そういって喜ぶサラをクロゥは止める。

「まだ別の仕事が残ってるんだわ。」

「何それ?」

クロゥはおもむろにゴブリンの死体から石を取り出した。合計2つ。

「な、なにそれ?」

「魔力石。ゴブリンは雑食だからそんなに高くは売れないな。」

「仕事ってまさか・・・」

「そ、仕事場の骨とか明らかな人工物以外で金になるものを持って帰るってのも俺たちの仕事さ!」

ダンジョン・洞窟内にはいろんなものがある。様々な種族の骨、明らかな遺品、事件の匂いがする物品、歴史的史料、珍しい自然物・・・。これらの内、自然物以外は持って帰らないのがルールでありマナーだ。理由は単純で、誰かの依頼品になることがあるから。探索家はそのルールをまもりつつ、魔法学者や薬草学者などに売れそうなものを持って帰る。格安の裏側である。

「密猟・・・?」

「白に近いグレー!」

「グレーなんじゃない!」

実際探索家が増えたとき、タークランド近郊の洞窟やダンジョンがコケ1つ生えていないような状況になったこともあるので、今の探索家たちは自分なりの基準を付けてその基準を超えないように採っている。

「まぁ直接禁止されてるわけでもないし、お、これは」

クロゥは腰のポーチに次々放り込んでいく。


 しばらくして、ほくほく顔で立ち上がり「そろそろ帰るか。」と言って先導しだした。

「ねえクロゥ、ちょっと聞いていい?」

「ん?」

「冒険者依頼には『討伐』ってあったけど、旧職者には『討伐者』っていないよね?どうして?」

「まぁたいてい用心棒に頼めば何とかなるし、ある程度までは各々対処するからな。開拓者は特殊だけど。」

「なんで?」

「あいつら道とか建物とか造るだろ?その時に安全を確保しなきゃならない。自分たちの手でな。」

「ああ、そういうこと・・・」

洞窟の入り口までついたところでクロゥが立ち止まった。

「こういう時も、対処しなきゃならない。」

ゴブリンが3体、入り口をふさいでいた。農場からとってきたのか、鎌を持っている。それも切っ先に糞が塗られている。

「えっ、ど、どうすればいい・・・?」

「下がって、絶対前に出るな。」

ゴブリンたちは何事か話している。と、突然真ん中の個体が足元に切りかかってきた。クロゥはそれをVQで受け、

「すぐ終わらせる!」

VQを発動させた。水晶部分が振動しはじめ、魔力が増幅されていく。

「オラぁ!」

上に振りぬく。ゴブリンは鎌ごと粉々になって飛び散った。続いて投げられた石をVQで受け、今度は地面に突き刺した。

「くらえ!」

増幅された魔力を金属部分に流す。すると、今度は金属部分が猛烈に振動し、同時に魔力を地面へ流しこむ。当然、自分の側から見て外側に向けて。

「??。?!!」

2体のゴブリンの足元が強烈に爆ぜた。一点集中された魔力がオーバーフローを起こしたのだ。離れて立っていた2体は気絶した。

「よし、逃げるぞ!」

二人は町へ駆けだした。

「いやぁびっくりしたな!」

息も絶え絶えのサラを途中何度か抱えつつ、一番近い門までたどり着いた。

「いっつもあんな危険なの?」

「あんまり戦闘は得意じゃないから、うまく逃げられるなら逃げて済ますさ。」

VQを革製の鞘に納め、落下防止の固定具を付けてクロゥは続ける。

「さて、素材うっぱらってから依頼達成するか。」


「まぁまぁ売れたな。」

路地裏で札束を数えながら言う。合計で4000ビル。人件費としては安すぎるくらいだが、一山n十万の時もあるので蓄えは十分にある。

「結構売れるのね。」

「安い方だけどな、まぁあのあたりの素材は割と見るからなぁ。さて、依頼人の住所は、と」

依頼書を確認していると、前から二人組が歩いてきた。


「貴様がジーク・クロゥか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

探索のご依頼はタークランド郊外まで 厨二尉 @tuney

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ