3.
一方の女子軍勢。
「あの銀髪の子!マジでカッコよくなかった!?」「声かけられたらどうしよぅー!」
等々の歓声を上げていた。
憎たらしいぐらいキャッキャウフフしているではないか!
俺は方向転換し椅子にまたがると、背後の美少年を睨みつけた。
「まぁまぁ……」
鈴木壱琉は申し訳なさそうにしつつ、笑顔を絶やさない。
こういう所を見ても、根がいいやつなのだと分かる。
俺は意地悪半分、試しに"カマ"をかけてみることにした。
「この俺……
「……え?」
銀髪の美少年は酷く困惑したようであった。無理もない。
「その……だから……俺ってどう思われてんのかなぁって……」
人目は誰しも気にする事だろう。
言い終えて
「親しみやすいんじゃないかな……他の人はどうか分からないけど……」
視線を
「正直すぎる……」
結論、俺の容姿は可もなく不可もないらしい。異論は認めない。そういうことにしておく。
くだらない談笑をしていると、背後から一人の女子生徒が声を掛けてきた。
「もしかしてお二人共、初めまして同士でしょうか」
「うん、そうだよ」
返答したのは壱琉だ。
「あの、私もこのクラスなんですけど……友達になってくれませんか!」
女子生徒から突然のフレンド申請。
案の定、壱琉は「もちろん!宜しくね!」と気前よく満面の笑みで挨拶を交わした。しかし、誰もがそういった対応をするとは限らない。
つまり、俺のことだ。
「あー……すみません笑。"左の方"も三年間よろしくお願いします」
同調するように、あるいは失笑するかのような態度で女子生徒は俺に話しかけてきた。
"左の方"とは俺の事を指している言葉だ。
感情のない声音に、他人行儀なこの顔。この女子生徒は本気で俺と友達になる気はないらしい。加えて、いきなり友達になろうだなんて。そういう所が心底気に入らない。
俺はそっくりそのまま他人行儀な対応をしてみせた。
「……あー、申し訳ないけどよろしくできないかも」
"左の方"が発した答えが予想外だったのか、女子生徒は困惑した。
「えっ……?……あ、はい、そうですか。失礼しました」
友達にならずとも不利益が発生しないのか、女子生徒は乾いた顔をして女子グループの中へと戻っていった。
「酷いなあ夜崎くん。あんなに可愛い子が勇気を出して友達になりませんか?ってお願いしてきたのに、あっさり断るなんて」
壱琉は居心地が悪そうな感想を漏らした。
断るのが酷いものか。
女をよく見ろ。打算的な目をしているじゃないか。この小さすぎる出来事を理由に、陰口でも叩いているんだろう。
俺は出会って間もない壱琉少年に、"友達とはなんたるか"という持論を率直に述べた。
「いいか、あれは友達という概念をはき違えたフォロワー稼ぎの連中と同じ人間なんだよ」
「ええと……つまりどういうこと?」
俺の言い回しが理解出来なかったのか、はたまた性格を悪く
これは……もう少し具体的に、簡潔に伝える必要があるようだ。
「……つまりだな、友達っていうのはいつの間にかなっているものなんだ。なろうといってなるものじゃない。
壱琉は少しばかり困惑していたが、直ぐに理解したようで、
「確かに夜崎君の言い分にも一理ある。でも、友達になるくらい気軽でいいと思うけど……」
「いや、ダメだ。俺はこんなやり方を絶対に受け入れない」
固く意思を貫いていた。
これまでも。そして、これからも。
壱琉少年は「やれやれ……」といった具合で飽きれていたが、少なくとも同意はしたようである。
時計の長針を見やると、間もなく入場開始時刻である九時半を指し示していた。くだらん話もこれにて終了。
「入学式まで時間がないな。すまん、トイレ行ってくるわ」
「あ、ちょっと待って」
こんな美少年にもツレションとかいうワードがあるのかしら、と、馬鹿な事を考えていると──
「明日も学校に来るといいよ。きっといいことがあるから」
突然、壱琉は奇妙なことを言い出した。
「いいこと?明日は学校休みのはずじゃ……」
「いいから。"絶対"だよ」
壱琉は先ほどの柔らかな笑みとは打って変わって生真面目な表情をしていた。
休みの学校なんぞ行って一体何をするというのだろう。部活動の見学か?言っておくが、俺は帰宅部志望だぞ。
そんなことを考えながら小走りでトイレに向かった。以降この日、壱琉と話すことはなかった。
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