第10話 1度目の挫折


沢山のエピソードを綴って行く中で、今だから笑い話になるけれど、当時は本当に辛かったなって振り返ると思います。


まず、1番最初に辞めたくなった時の話をしますね。


「仕事を辞めたい」と思う瞬間は沢山ありました。

私は結構不安症の心配性で、自分で判断するのが苦手なので先輩社員やリーダー、介護管理に確認してしまいます。


「それって悪いことじゃなくない?」って思うでしょう?

一番下っ端の1年目なら超優秀ですよね。我ながら。

私には同期が一人いますが同期の子はメキメキと成長して、社員の仕事をしっかりとこなしていました。

また、私の一個上の先輩社員はみんな仕事ができる人達ばかりで、私達はそれをめざしていたわけです。


同期が仕事できるのはわかっていたし、私は自分はコツコツ型だと自分でもわかっていたので気にしませんでしたが、会社の上の人は違います。


「去年の子達のように頑張れるだろう」「仕事はできてるから次のステップにいけるだろう」「音楽療法でトランペットも吹ける。」


恐らくそのような感覚だったんだろうと思います。




まず私の場合、「音楽療法」で潰れていきました。




私の同期は音楽大学の「音楽療法の学科出身者」です。

私は音楽大学の「トランペット専門」で、全く違う畑からやってきたわけです。


同期は大学時代から音楽療法に触れて、高齢者施設などで研修や記録をして事例を書いて大学で勉強してきた人です。

もちろん、音楽大学出身者なのでピアノは弾けます。


私は音楽大学でしたが、「トランペット」を中心に勉強しました。

なので何をしてきたかと問われたら「ソロ」「アンサンブル」「オーケストラ」「吹奏楽」など。


「ピアノ」ももちろん必修科目でしたが必修なのは2年生までで、たまたま厳しい先生が担当だった私は「ピアノはもうやらなくていいや」と思い、2年しかやりませんでした。


そもそも私は音楽大学を受験するまでピアノのレッスンは受けたことがありませんでした。

受験生になって初めてピアノのレッスンに行き、本格的に弾き始めたので。


それが職場で完全に裏目に出てしまったのです。


楽しいはずの音楽の時間が、地獄のような日々に変わりました。


新人のうちは会社なりの配慮で沢山音楽療法の時間を割り当てて貰っていましたが、私は苦痛で仕方がありませんでした。


しかも高齢者向けの歌なんて知りません。

歌謡曲なんてそれまで全く興味がありませんでした。



ひとまず楽譜とYouTubeを睨めっこしながらその日をしのぎ、楽譜をコピーして家に帰ってまた練習する。それを繰り返しました。


「もう少し頑張っても無理ならもう音楽療法辞めて介護一本にしてもらおう」


そう思って悩んで、他の職員や直属の上司にその旨を相談したら


「大丈夫だよ、たかはしちゃんできてるよ」


と言われてしまいました。


私は泣きました。

そんなふうに思えてたらとっくに解決してるっつーの!って。


とりあえず私は休みの日にはピアノを弾きまくり、カラオケでは歌謡曲を歌いまくり、仕事では音楽療法と初めての介護職に追いかけられて、あるときの休みの日には一日起き上がることが出来なくなってしまいました。


(もう無理かもな・・・・)


社会人一年目の私には色々しんどかったんです。


高齢者の介護は理不尽なことも沢山あります。


しかもそれに加えて少ない給料から保険と年金で減る手取りと家賃の支払い、奨学金の返済、光熱費の支払いに激務で自炊しない日々。

憂さ晴らしにショッピングなんて以ての外です。


趣味だったイラスト書きや漫画には全く手をつけることが出来なくなってしまい、何をしても楽しく無くなりました。


息をするのも苦しいくらい、ヘトヘトになってしまいました。

涙を流す日が増えていきました。



(このままじゃ生きていけない。)



そう思って、本気で心療内科に行く準備をはじめました。

何故かその時の私は「一旦職場を離れるには病気しかなくね?」という考えに至りました。

とにかく弱っていたんです。


しかし、1年目は夜勤もなく連勤も普通だったので、休みの日に動くことが出来なかったのです。負のループ。



そこからどう脱却したかというと介護をはじめて1年目が経つかたたないくらいのときです。


「たかはしさんの声掛けっていいよね」


と、たまたま一緒に入浴介助をしていた職員に言われました。


「音楽もさあ、たかはしさん上手いってみんな言ってたよ。声がよく通るから、聞きやすいんだろうね。」


びっくりしました。


私、ちゃんとできてる?

上手くできてる?


そんな話をしてから、上長との面談がありました。

うちの会社では、定期的に社員は上長と面談があります。


「音楽不安がってるけどできてるよ。大丈夫だよ。

みんなたかはしさんのトランペット凄い褒めててね、音楽会でも喜んでたよ。」


そう言われて私はまた嬉しくなりました。

そして「もう少し頑張ってみよう」と思いました。



褒められるとすぐ喜んじゃう単純な性格が、上手くいったようでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

記憶のかけら 大路まりさ @tksknyttrp

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ