第5話 ラーメンが食べたい

ここまで、認知症の人の話をしてきましたが、高齢者の施設ではありますが全員が認知症と言うわけではありません。

認知症は脳の疾患ですが、身体の疾患を持っている人もいます。

糖尿病やリュウマチ、心不全など様々です。私の知らない病気だってたくさんあります。とゆうかほとんどわかりません。

介護職員にならなければ、私は近頃に多く見かける誰でもトイレのオストメイトのマークの意すら知りませんでした。


今回は疾患の持っている入居者さんのお話です。


はっきり言います。

私はその人がどんな病気を持っていたか、あまりよくわかってはいません。

何故なら私はその当時はまだ新人で、業務は独り立ちをしてはいたけれどもまだまだ未熟者でした。

更に、私が入社した当初はずっと病院にされていて、数か月はお会いしたことがなかったのです。なので、退院された時には、バルーンをつけていたし、移乗も二人介助で食事は昼食のみをダイニングで召し上がっていてその他は点滴をされていました。


ここではT江さん呼ぶ事にします。性格は結構きつめ。はっきりものを言うタイプのおばあ様でした。

何なら職員の悪口だって平気で言うようなおばあ様です。私はその人としゃべるのが本当に怖かったことを覚えています。

しかし、仕事上関わらないわけにはいきません。コールが鳴ったら行かなくてならないので居室にはいきます。

退院されても、すぐにまた入院してしまって、ほとんど関わることもなかったといえばなかったですが、やっぱり苦手意識は取れませんでした。


ある時のことでした。

ナースコールが鳴ったので、私は居室に行きました。

「喉が渇いた。」と言うので、居室の冷蔵庫にあったジュース(ゼリー飲料?)を出してあげました。食事にトロミをつけていたのでゼリーみたいなやつだったかもしれません。


居室では、テレビの音だけが鳴り響いて、とっても気まずかったのを覚えています。

その時でした。テレビではグルメ番組がやっていて、おいしそうなラーメンが映っていたんです。


「おいしそうよね。ラーメン食べたいわね」


とT江さんは言いました。

それは、はっきりとした声でしゃべっていたんですが、声色は少し切ないように感じました。


「ラーメンお好きなんですか?」

「うん、好きだった」

「そうですか・・・・。」


私はそうですか、としか言えませんでした。

もうその時点で、涙が出そうになりました。


介護をしていてもどうしようもできないこともあります。

今思い出すと、その人はがんだったのかもしれません。

痛みが強いときには、薬を使っていたような気がします。それは看護師さんが行うので、詳しいことはわかりませんが、医療麻薬などだったのかもしれません。

それは私には対処が出来ません。

「T江さんがお薬が欲しいと言っていました」としか言いようがありませんでした。


介護側の仕事の中に、T江さんは毎日足浴がありましたが、足はほとんど壊死しているように見えました。

直視するには嫌な光景です。グロテスクな映像が苦手な人にはかなりきついかもしれないです。


身体的にも精神的にもきつい部分はあったんでしょう。

「ラーメンが食べたい」と言った言葉の中には、いろんな意味が含まれていたと今思い出すと思います。


それからあまり日が経たないうちに、その人は亡くなったと思います。

搬送になったのか、施設で亡くなったのか、申し訳ないですが覚えていません。

呼吸停止した時に出勤していたら必ずお顔を見に行くので、自分が不在だったときだと思います。

なので、詳しく思い出せません。

しかし、それが初めての看取りではありませんでしたが、今でもたまに思い出します。



私の勤めているところでは、看取りがあります。

人生の最後を施設の中で過ごされるんです。


もちろん、もしも万が一のことがあった場合に最期はどうするのかご本人とご家族様が話し合って決めます。

例えば、延命治療を希望するのかや、持病などが悪化した場合や体調に急変があった場合には救急搬送するのかなど、細かく決めます。

ご本人でサインがかける人には入居に一度書いてもらいます。

もちろん、随時様子を見ながらご家族様とも相談し、変更もあります。


それから搬送されたっきりで施設に戻って来ない方もいます。

施設内では対応できない医療行為が必要となった場合や、違う施設に移ることになった人などです。


私の勤めている施設は、看護師は夜間いません。

なので、夜間にたん吸引や痛み止めの注射などが必要なときには、介護士では対応できません。

なので、搬送されてそのまま帰れないので、それっきりとなってしまいます。



最初こそ看取りは衝撃的で、悲しくて、息が細くなる様子を見るのが怖かったです。

しかし、それも介護士の仕事です。

最期まで「ここはいいところだった」と思って貰えるように、精一杯お手伝いします。










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