第4話 わけがわからない


先に話した通り、私は就職先が介護施設になったわけです。仕事をするために資格を取りに行きました。その際に、沢山の介護での事例を聞きました。

事例を聞いて不安もあったけれど、それでも「介護っていい仕事なんだ」、「やりがいのある仕事んだ」と思いました。


・・・・・・仕事を始めるまでは。


そもそも私は依然話しましたが、デイサービスを希望していたわけです。

通所施設に身体的に重度の利用者様って、なかなかいません。

手引きならば歩ける人は多く、デイサービスでお風呂に入ったりだってするわけです。

完全に舐めてた・・・・・。


さて、今日は「わけがわからない」利用者様の話をさせてください。


私も話を書いていて意味が分かんなくなるかもしれませんが、入居者のT子さんからは、毎日開口一番に「わけがわからない」と言われます。

・・・・・何が「わけがわからない」のか。

私にも全くわかりません。


なぜならT子さん自分が今はどこで何をしているのかわかっているからです。


「T子さん、ここがどこだかわかる?」

「施設」

「何の施設?」

「老人ホーム」

「今何してる?」

「ご飯食べてる」


こんな感じで分かってはいるんですよね。なのになぜかわけわからなくなってしまう。

あの、ここまでの話を聞けば、まあ普通の話ですよね。

認知症の人だからしょうがない。って割り切れるんですが、この人、何度も聞き返すのはいいけれど、言いかたに問題あり。


「え?」


としか聞いてこないんですね。

例えばですが、「これからお食事ですよ」と言っても


「え?」


「歯磨きをしましょう」と言っても


「え?」


「わけがわからない」というので、「これからお着換えしますよ」と言っても


「え?」


なんでやねん!と突っ込みたくなるくらいには毎日コントのようです。

え?あなたわけわかんないんですよね?困ってるんですよね?だからこれから何をするか説明していますよね?と、心の中でツッコミを入れますよね。


私は思うわけですよ。

薄情って言われても仕方ないと思いますけども、私は別にわからないことはわからないままでもいいんじゃないかって思います。

認知症の人の心理はわからないけれど、きっと「自分が何をしたらいいかわからない」「自分の居場所がわからない」等の不安に駆られているんだと思うんです。不安を取り除くことが出来ればいいけれど、なぜわからないのかを忘れてしまっているから余計にわからないんですね。


だから私はいっその事、わからないことはわからないままでもいいんじゃないかと思うんです。


例えばですけど、子供のころに勉強などで「なんでわからないの!?」と叱られたことはありませんでしたか?親や先生から。

私はそれが本当に大嫌いでした。

わかんないもんはわかんないんだからしょうがない。

それと同じように、「わからないままでも大丈夫」と言いたい。

わからなくっても、職員さんたちは人としての生活をお手伝いしてくれるんだもの。ちゃんと着替えやお風呂や食事を手伝ってくれるわけです。それも、職員はちゃんと理由を言ってから手伝ってくれます。これから食事なので、起きる準備をしましょう。とかね。


介護職員として、私はどこまで声をかけていいのかわかりません。

これは失礼にあたるのか、これは暴言の中に入るのか、私の言いかたは尊厳を尊重できているのだろうかなど、言葉を考えてしまいます。

それを考えると「わからなくてもいいんだよ」って言ってもいいものだろうかと思ってしまうのです。


近頃は、介護職員の不祥事はすぐにニュースになります。

職員の暴言や暴力のニュースを見るたびに「人としてあり得ない」と思う反面、「いや、わかる・・・」と思うこともあります。


介護職員の話が、もっともっとたくさんの人に伝わればいいのに。

いいことばかりじゃない。

優しいだけじゃやっていけない現実がもっと目に見えればいいのに。

そんなことを思いながら、私は仕事を続けていくのです。











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