第1区 2日目ー1 『鮫』『虎・2』
・記録2日目
起床:午前5時23分
天候:晴れ
今日は調査で、前日に分かった『虎』の新個体の調査についてだ。
『虎』は自身で活動範囲を決める習性がある。その判断基準は明確ではないが、知能の優れた『虎』である。何か明確な線引きがあるはず……それを確かめる為にも私は昨日の死骸があった場所に赴いた。そこにはやはりというべきか、血の染みが消えていた。
血が垂れた跡地には『鮫』がどこからともなく現れてくる。『鮫』は体長にして2センチあるかないか程度の小さな蛭のような生き物だが、壁に着いた血の染みなどを吸い出す習性がある。そしてその周辺にある肉や骨といった動物の部位も食す為、『鮫』はこの第1区の分解者である。しかも分解スピードは異常なまでに早く、死体が出来上がり、半日経って死体が残っていればもった方だ。人間の死体であれば出来上がった瞬間から大体数時間で既に死体に『鮫』の群れがへばり付いている筈だ。そう考えるとあの死体は私が通るまで出来上がっていなかった死体になる。ひょっとしたら私の近くにも『虎』がいたのかもしれない。その『虎』が運よく別の人間に狙いを定め、私の代わりに食べられたのかもしれない。そう考えると彼の命に代えても生き残らなくてはならないな。早く新しい個体の『虎』を見つけなければ彼に申し訳が立たない。名前も顔も知らない彼に。
『鮫』は普段は地下で眠っている。しかしどこかしらで死体が出来ると、その匂いに反応して周囲20メートル圏内の『鮫』は起き上がり、その場所めがけて行進を開始する。更に質の悪い事にこの『鮫』は血の臭いにも反応する。死体程ではないものの、その反応速度は死体と同等。出血した血が地面に垂れる瞬間にはもう既に『鮫』がそこらじゅうの地面から這い出てくる様は鳥肌が立つ。
『鮫』は強力な消化液を吹きかけて対象を溶かし、それを食べるという習性がある。その消化液はコンクリートも容易に溶かす為、寝る場所を作る際も『鮫』は消化液を対象に掛けて穴を作り、その中に潜り込んで再び寝付くという。
なのでこの第二区の道路のコンクリートは『鮫』の穴だらけであり、まるで肌荒れが酷い中年の男の頬を連想させる。気味が悪い。
そんな『鮫』だが、怪我を負わなければ基本的に無害であるし、対処の仕方は虫と同じで燃やせば簡単に死ぬ。更には人が死んだ際も放置しておけば勝手に『鮫』が死体を食べる他、排泄施設に『鮫』を住ませれば糞尿を彼らが食べる為、基本的に恐れる部分は少ない。まぁ、血を流した時点で一気に情勢は変わるが。
少し話が脱線したようだ。話を戻そう。『鮫』は先ほど言ったように消化液で対象を溶かして食べるといった。なのでその溶かした部位は穴として形跡が残る為、『鮫』の群がった場所は他と比べて穴や凹凸が激しくなっている。そして『鮫』は血の一滴も見逃さない。ならば『虎』があの死体を食べた際に付いた血が滴り落ちて道が出来ている筈……そこに必ず『鮫』もいたと見切りをつけていると、やはりというべきか、『鮫』の食べた後が残っていた。
私はその跡を追っていくと、一匹の『虎』を発見した。他の『虎』と違い一匹でいる事から察するに生まれたばかりの個体であることは確かだった。幸先のいいスタートを切れた。観察したところ今日発見した『虎』の個体は大きさはおよそ軽自動車レベル。まだ行動範囲も分かっていないので生まれてどの程度かは分からないが、周辺に『虎』がいないあたり、まだ拾われていないのだろう。
『虎』には謎がまだ多い。卵生なのか胎生なのか分らないし、肉体構造、雄雌の違い、そもそもオスとメスがあるのかも分からない。死体を解剖しようにも『虎』がたとえ老衰で死んだとしても直ぐに『鮫』が死体を溶かす為見た事すらない。というか『虎』は死ぬのだろうか?分かっているのは人を食すというのと、食すだけの殺傷能力を備えているという事。
そしてもう一つ、彼らは群れで行動する。『虎』は基本的に複数匹で行動しており、狩りになるとじわじわと獲物を囲い込んで襲い掛かる。これが『虎』の基本的な狩りだ。思えばあの時に一匹で大暴れしていた『虎』は囲い込んでいる仲間の近くにおびき寄せる為にあれだけ暴れまわっていたのかもしれない。まぁそれを思い返しても致し方なし。話を戻そう。
『虎』は獲物を手に入れる為であれば何匹でも行動する。他の群れの狩りを発見すればその援護に入るほどに『虎』は仲間想いであり、集団での意識を高く保っている。ゆえに一匹の『虎』は中々お目に掛かれない。
その『虎』は大体が生まれてまだ間もない個体か、特異種かのどちらかだ。
『虎』は生まれたばかりは周囲をどこという訳でもなく歩き回り、やがて群れを見つけると、その群れに入り込むという習性がある。一度それを知った集落に住んでいた少年が『虎』を捕まえようとその集落を出ていったことがあるが、あれから少年はどうしているのだろうか。死体を見ていないので『鮫』に食われて死体ごと無くなったか、もしくはまだ生きているかの二択だろう。久しぶりにあの集落に出向くのもいいかもしれない。
話を戻そう。そしてここで問題点が生じる。新しい『虎』が生まれた際、彼らの発生は我々にとってだが、かなりの危険が生まれる。まず、その『虎』は群れに入るまで決まった行動範囲が無いので把握できず、群れに会うまでに人間の集落を見つけ出してその集落が全滅するというケースがある。そうなると質が悪い事にその行動範囲を群れの『虎』達にも教えて更に群れの凶暴性が増すという、循環に陥る為、非常に嫌な流れが生まれるのである。
はやく見つけ出して群れに合流させなければ群れが進化して更に減る人数が増してしまう。
全く。これで『虎』達の行動範囲がどれだけ増えてしまうのか考えるだけで恐ろしい……これ以上の進歩はやめてほしいものだ。そろそろ抑えておいた仮拠点もなくなりそうなのに……このままだと第2区に移動しなくてはならないな。土地勘が無いので避けたいところではあるが。
ページはまだ続いている……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます