終末的都市・10区
極丸
とある男の話
第1区 1日目 『虎』
・記録1日目
起床:午前5時23分
天候:晴れ
今日から日誌をつけることにした。崩壊したショッピングモールの中にまだ使える状態だったノートとペンがあったのは幸いだった。これで少しは後世の人間に情報を共有できるかもしれない。今、私は日課をすべて終えて拠点にてこの日誌を書いている。日課というのは今日の分の飲み水の確保、食料の調達、活動可能領域の捜索、そしてまだ生きている人や集落の発見である。この世界になってから早十年が過ぎたが、まだ安定した生活は得られない。いや、そんなものは無いのかもしれないが、やはり憧れは捨てきれない。
突如としてどこからともなく現れた謎の生命体。これで世界はたった1日で半壊した。都市機能は停滞し、電子機器は無用の長物。硬貨は唯の鉄くずに成り下がり、紙幣はちり紙よりも価値のないものに変わり果てた。
その現象は今私がいる第1区にも当てはまる。当時は活気にあふれていたこの町も現在では見る影もなく疲弊しきっており、ホコ天であった国道には人間の代わりに――ここでの仮の名前を『虎』と名付けよう――『虎』が闊歩していた。
『虎』は肉食であり、当然我々人間も食す。あの時も現れてからすぐさま手当たり次第に周りにいる人間を食していくのを見たのは今でも思い出せる。
この世界の『虎』は、前の世界の虎よりも数倍大きく、バスの車体を優に超えた体躯である。前の世界の虎がかわいい位だ。
そんな『虎』はあの時も単純な暴力で我々を蹂躙した。爪は車体を簡単に傷つけ、その一鳴きは辺りにいるすべての人間の意識を奪っていった。更に脚力もすさまじく、助走なしの一蹴りで数十メートル先にいた我々に簡単に追いついて見せた。その風圧で周辺の窓ガラスは大破し、甲高い音を立てて崩壊していった。追いついた我々に『虎』は軽自動車一台は丸呑みできそうな大きな口を開けて再び蹂躙を開始した。蹂躙に巻き込まれなかった人々は運悪く巻き込まれた人間を置き去りにして走り出す。その中に当然私もいた。
『このまま逃げよう』
逃げる当てもない我々は走り続ける。やっとあの『虎』から逃げ切ったと思った。しかしそれでは終わらなかった。
『虎』は何匹もいたのだ。
それも二匹三匹というレベルではない。目の前のシェルタ―の上に見下すような視線をこちらに向けて『虎』達は余裕そうに座り込んでいた。
『俺たちはいつでも狩れる。好きなだけ逃げろ』とでも言わんばかりの視線であった。一人が逃げ出そうとして、それを内一匹の『虎』が飛び掛かって仕留める。辺りにいた人間も『虎』の足に押しつぶされて巻き添えを食らった。それにより一気に逃げる意志が潰されていった。あの時の絶望感と言ったらない。
そんな蹂躙を尽くした『虎』は、この第1区の狩人である。『虎』達は常に大通りを占拠し、
現に今日もこのノートを拾いに行った帰りに『虎』に襲われている集団を確認した。3匹ほどの『虎』に囲まれ、更に音を聞きつけてか少し離れた場所にもう2匹『虎』がいたので死んだとみて間違いないだろう。帰る道中にその地点に向かって別の『虎』達がどんどんとその地点に向かって行ったので時間が経つにつれて死へと確実に近づいていくだろう。
そして私の家の付近でも『虎』に食い殺されたと思われる死骸も見つかった。新しい『虎』が生まれてその個体の行動ルートに入ってしまったのかもしれない。調査が必要だな。
就寝:午後11時23分
TOPIC
ノートで日誌をつけることになった。
近くに新しい『虎』がいる可能性あり。←調査が必要
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