26



「マリー。ご飯だぞ」


トントンと肩を叩かれ、瞼を上げるとゲイルが私を呼んでくれた。

少し、眠ってしまっていたようだ。


「…あ、ありがとうゲイル。アレンも。」


そう言って2人で席に着いた。



昼食はトマトのリゾットと温野菜のサラダだ。

料理まで優しくしてくれた事が分かり、少し心が温かくなる。



一口、二口進めて行くと頭も冴えてきた。





「ゲイル…少し考えていたんだけど…。

国からの保護金が貰えたらここを出ようと思うの」



「マリーなら…さっき言われた事を踏まえて、そんな事言うんじゃ無いかと思っていた」



「だ、大丈夫だよ!元々考えていた事だし!…ずっとここには居られないもの…」



そう。ずっとここには居られない。

元よりここから出る事を目標にしているのだ。



「………。マリー、食べ終わったら少し歩かないか?」


「…え?いいけど…何処に行くの?」


「内緒」



ゲイルが内緒、だなんて言うのは初めてだった。

首を捻ったが、きっと悪い様にはされないと知っているのでコクリと頷いた。


黙々と2人でご飯を食べ、片付けをして家を出た。


アレンは暫く離れる。と言って何処かに行ってしまった。



ゲイルは裏の道をぐにゃぐにゃと、10分程歩くと


湖に着いた。




「ここは…」


「俺たちが初めて会った場所だ」



そこは2週間程前、私が転移して来た湖だった。


家の裏近くにある事は知っていたのだが、転移してきてから初めて来る。

良い天気なので、水面がキラキラと輝き

水の透明度も高く真ん中に行く程深いらしい。

濃く青くなっている。


魚が泳いでいるのが目に見え、とても美しい。

キョロキョロと目新しいこの景色を隈無く眺める。



「…怖くはないか?」


一応、溺れた場所だったのでゲイルが心配そうに聞いてきた


「大丈夫だよ。こんなに綺麗な所だったんだね」


これ以上心配掛けまい、と精一杯笑顔で応えた


「あぁ、怖がるといけないと思って中々タイミングが無かったが…その感じだと、早く連れてきたら良かったな。俺のお気に入りの場所なんだ」


「分かるよ…とっても綺麗。ずっと見ていられるね…」


「そうだな。…マリー。俺はそんなに頼りないだろうか?」


ゲイルはマリーに語りかけるように、眉を下げながら問う。

そんな表情もするんだ…と少し反応が遅れてしまう。




「…え!?いきなりどうしたの?」


「いや、マリーは仕事や勉強以外で中々自分から思いを口にする事が無いからな」


「仕事や勉強で十分頼っているんだけど…」


「それは、そうだな。

だが、なんだかマリーは焦っている気がする。

ここに来てから起き上がれるようになった2週間、ずっと動きっぱなしだった。」


「…それアレンにも同じ様な事を言われたわ。

私…早く色々返したいの。それがお金で賄えるものじゃなくても、少しでも返したい」


「そうか…ありがとう。その、気持ちは十分伝わっている。だが、言語やここでの暮らし方の方法がまだ完全では無いだろう?」


「あ…」



失念していた。

保護金が有れば一人暮らしが出来る。

やりたい仕事じゃ無くても仕事をすれば、生きていける。


そう思っていた。


この2週間平和に暮らせていた。

そして、あちらで出来ていたのだから大丈夫だと高を括っていたのだ。

ゲイルが居たから安心して暮らせていたと言うのに…


ここは異世界だ。

何もかもがあちらとは違う。




「ミレーヌは美しい街で治安も良い方だ。

だが、それも【ある程度】。スラムや怪しいもの達が住む場所だって有る。

強制的に引き止めるつもりはないが、今はその時では無いように思う。

女性の一人暮らしは、おすすめしない。


まだこちらへ来て2週間と少し…

だから、期間を決めよう。

1年。その間に色々考えれば良い」




「…ありがとう…ありがとう、ゲイル……。



1年、お世話になります…」




あんなにグルグルでぐちゃぐちゃだった心が解れていく。

ここに居ても良いんだ…と安心する





【ゲイルの傍に居られる】、そんな気持ちが蓋を出来ずに溢れて止まらない


涙はあの1回だけで良い。と、堪える為に胸の前で両手をギュッと握った



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